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労働実務Q&Aこれで解決!

直接払いの原則と例外

Q.

当社の従業員がサラ金で借金をし、金融業者から、「本人より賃金債権の譲渡を受け、証書を持っている」ので、会社に賃金の支払いを求める旨の通知がありました。従業員の妻に賃金を直接払うのはよいと聞いたことがありますが、賃金債権の譲受人にはどうすればよいのでしょうか。また、賃金債権を差押えられた場合、会社はどう対応すべきでしょうか。

A.

金融業者の請求はキッパリと拒絶すべきです。労働基準法24条は賃金の「直接払いの原則」を定め、罰則をもって強制しているからです。従業員の妻への支払いは「使者」として有効であり、賃金債権の譲受人とは異なります。ただし、裁判所の手続によって差押えがあったときは、一定限度額を超える部分の支払いは免れません。


◆賃金直接払いの原則

 賃金は、「直接労働者に」支払わなければなりません(労基法24条1項)。これは、かつて人夫供給を業とする親方等が賃金をピンハネしたり、子どもの賃金を親が食い物にするなど前時代的中間搾取の弊害を改める趣旨の規定です。
 したがって、親権者や後見人等の法定代理人への支払いや、労働者から賃金受領の委任を受けた任意代理人への支払いは、法律上は無効です。使用者がこれらの者へ支払ったとしても有効な弁済(賃金の支払い)とはならないのです。これが強行規定たる本条の法的効果です。
 では、おたずねのような賃金債権の譲渡の場合はどうなるのでしょうか。賃金債権は一般債権と同様、譲渡自体は可能と考えられています。なぜなら、社会保険(医療保険、年金保険)や労働保険(労災保険、雇用保険)の保険給付を受ける権利などと異なり、賃金の譲渡禁止規定がないからです。
 しかし判例は、労働者が賃金債権を有効に譲渡した場合でも、譲受人への支払いは「直接払いの原則」違反となるとしています(最判昭43・3・12)。金融業者への賃金債権の譲渡が民事上有効だとしても、使用者との関係においては無効という厳格な立場をとっているものと解されます。
 一方、労働者が病気などで賃金を直接受けとることができないような場合に、妻に支払うのは問題ないとされています。妻は労働者の代理人ではなく「使者」と考えられるからです。代理人は自ら独立の意思表示をするのに対して、使者は本人の機関にすぎないのです。社会通念上、労働者本人の受領が確実と考えられる場合は使者と解されます。


◆賃金の差押えへの対応

 従業員の賃金が金融業者等の「第三者」から差押えられた場合に、差押債権者に支払うことは、直接払いの原則に違反しません。債権譲渡は当事者間で任意になされるものですが、差押えは法律に則って国の機関たる裁判所が行うものであり、労基法の定める直接払いの原則も執行手続にまで優先するとは考えられないからです。
 ただし、賃金の差押えも一定の限度額があります。労働者にとって賃金は唯一の生活の糧となるものだからです。具体的には、毎月の基本給に各種の諸手当を加えた支給合計額から、所得税、市町村税、社会保険料等を控除した額の4分の1まで差押えることはできますが、残りの4分の3(厳密には、政令により4分の3または21万円のいずれか低い額)は差押禁止債権とされています(民事執行法152条)。債権者の生活と法定の手続を履行した債権者の保護とのバランスを図っているのです。
 要は、単なる債権譲渡にもとづく請求には応じてはならないが、法にもとづく強制執行には応ぜざるを得ないということです。 

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