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労働実務Q&Aこれで解決!

病院経営と人事制度改革

Q.

 200床弱の病院を経営しています。私自身医師であり仕事熱心です。そのせいか職員の夜間勤務も多く、職員の定着率はよくありません。質の高い医療を心がけ、一定の売上高は確保しているものの、ここ数年利益はわずかです。医師をはじめ看護師等の職員は、病院経営にはまるで興味を示しません。職員の給与は、公務員に準拠した年功賃金。高コストで賃金効率はよくなく、経営を圧迫しています。これらを解決できる手立てがあれば、ご教示下さい。

A.

 少なくとも次の3点を熟慮してみて下さい。第1は、組織の理念を明確にすること。職員の心の拠りどころとなる価値観や行動規範を共有することにより、組織への帰属意識や忠誠心を醸成することができます。第2は、適正な収益性の確保。質の高い医療サービスの永続性を担保するもの。それは必要最低限の収益性の確保です。第3は、年功賃金から訣別し、能力・成果重視の賃金制度を導入すること。病院に貢献している職員へ賃金で報いることです。 


◆組織の理念を明確にし浸透させる

 医師、看護師等は国家資格としての専門職。業界全体が人手不足気味なので、転職も容易です。したがって、職員の組織への帰属意識やロイヤルティーは希薄になりがちです。
 そこで必要となるのが、組織の理念。企業でいう経営理念です。組織の目的、価値観、存在理由などを成文化し、全職員の前に掲げるのです。「人はパンのみにて生くるにあらず」。つねに意味を求めています。病院の崇高な社会的使命をわかりやすく表現すれば、共感が得られ、職員の一体感を高め、ベクトルを合わせを行ってくれます。
 肝心なことは、組織の理念を人事制度に落としこみ、経営トップのメッセージを伝えること。「期待する職員像」を具現化し、キーワードにして職務基準書や人事評価シートに散りばめます。人事制度は、組織の成員が使命を達成するためには何が重要で、常日頃どのような行動をとってほしいかを指し示すツールなのです。制度の運用が人を成長させます。


◆利益を確保し経営基盤を確立する

 「医は仁術なり」といわれるように、医療は人命を救う博愛の行為、という意識が医師や職員にはあります。医療の質の向上には熱心であるものの、病院が利益を出すことに後ろめたさあるいは罪悪感すら持っているのです。
 しかし、病院は装置産業。資産に占める医療機器や病院建物の比率が高く、よい医療を永続的に展開するためには、適正な収益確保が不可欠なのです。経営が安定していればこそ、医師や看護師は治療に専念できるのです。
 経営トップは、経営計画や経営方針をつくり、数値の裏付けのある舵取りを求められます。経営管理者に対して随時、意思決定のための情報を提供できる管理会計のシステムも必要でしょう。この場合、目標管理が有効です。組織の数値目標は、目標管理制度を通じて各部門や個人にブレイクダウンし、個々のマネジメントにより、組織全体の目標達成をめざします。


◆能力・成果重視の賃金制度の導入

 公務員の俸給表に準拠した賃金処遇は、評定を反映せず昇号してくため、建て前はともかく運用上は完全な年功給。これでは公平・適正な処遇とはいえず、職員満足は得られません。人材育成や人材の活性化にもほど遠い状態。意欲のある職員は不公平感を抱き、職場には、努力をしてもしなくても同じという悪平等の組織風土が蔓延してしまいます。
 打開する道は、能力や成果を重視した賃金処遇制度の導入。診療報酬の抑制など経営環境が厳しさを増すなか、病院も企業のノウハウを取り入れて、賃金・人事制度改革の推進を迫られています。病院は労働集約型産業。医業収入に占める人件費比率は高く、賃金・人事制度は病院経営の根幹です。
 若年層は能力主義(能力評価)、シニア層は職務・成果主義(職務評価・業績評価)の賃金制度が最適です。これが職員にとってもフェアーであり、人件費投資効率の観点からも合理性があるのです。

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