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労働実務Q&Aこれで解決!

過労死等防止対策推進法への対応

Q.

 厚生労働省の平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によると、脳・心臓疾患の労災補償の請求件数は784件。うち、過労死の労災認定を受けた件数が133件。一方、働き過ぎから精神障害を発症し、労災補償の請求をした件数は、過去最高の1,409件。このうち自殺に及び、過重労働だったとして労災補償の支給決定を受けた件数は63件。過労死や過労自殺の労災認定が後を絶たない厳しい現状をうけ、ようやく過労死防止法ができました。

A.

 悲惨な過労死は1980年代の後半から社会問題とされてきましたが、20年以上たった今でも一向になくなりません。過労死は、日本の社会にとっても大きな損失。昨年6月、「過労死等防止対策推進法」が、超党派の国会議員による議員立法で成立し、11月1日から施行されました。過労死という言葉を法律の名称として明示し、過労死を防止することは国の責任としたことは評価できます。企業の経営者や人事担当者に再認識してもらう契機となればよいですね。


◆「過労死等防止対策推進法」の概要

 この法律は、「近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的」(1条)として制定されました。
 ここでいう「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡」である過労死と、「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」である過労自殺の両方を指しています(2条)。
 法は、2つの基本理念を定めています。1つは、過労死等の調査研究によってその理解を深め防止に活かすこと。もう1つは、過労死等の防止対策は、国、地方公共団体、事業主が連携して行うということ(第3条)。
 過労死等の防止のために、国、地方公共団体、事業主、国民の4者に責任を課しています(4条)。企業には、国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるという努力義務が課されています。違反に罰則などのペナルティーはありません。
 法律は、行政に対し、さまざまな責任と義務を課しています。毎年11月を「過労死等防止啓発月間」とする(5条)。毎年「過労死白書」を発行(6条)。過労死防止大綱の策定(第7条)。
 過労死の防止対策としては、①過労死等に関する調査研究、②教育・広報を通じた啓発、③過労死等に関する相談体制の整備、④過労死防止に関する民間団体の活動支援(8条~11条)の4つの具体的項目を定めています。


◆労災の認定基準と使用者の民事責任

 「過労死等」の定義は、従来の行政通達による労災認定基準を踏襲したものであり、厳密に労災の該当性を判断する場合には、この認定基準が用いられることになります。
 過労死の業務上外認定については、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(平13・12・12 基発1063号)が用いられます。国は、月80時間の残業を「過労死ライン」に設定。
 過労自殺の業務上外認定については、最近改訂された「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平23・12・26 基発1226第1号)が使用されることになります。
 過労死等の被災労働者の遺族は、労災保険給付の価額の限度を超える損害について、会社に対し民事上の損害賠償請求が可能です。その法的構成には、使用者の安全配慮義務違反(労契法5条)を理由とする債務不履行による損害賠償請求(民法415条)と、不法行為による損害賠償請求(民法709条、715条)があります。

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