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労働実務Q&Aこれで解決!

65歳継続雇用と3つの課題

Q.

 高年齢雇用安定法の改正により、企業は、希望者全員を65歳まで雇用しなければならなくなりました。当社も、定年は60歳としているものの、継続雇用制度を設け、雇用確保措置義務をクリアしています。再雇用後の身分は嘱託とし、1年間の雇用期間を設定して、65歳になるまで更新します。再雇用規程によると、再雇用時の賃金レベルは、定年時の賃金の6割程度。これから生ずるであろう課題と対応策についてご教示下さい。

A.

 大まかな論点は3つあります。第1は、法律問題。60歳再雇用時の賃金減額は合法的か否か。労働条件の不利益変更に抵触しないか、という問題です。第2は、賃金制度の整備。大幅な賃金減額は、モラールが下がります。60歳以降の賃金決定の根拠、基準をどうするか、という課題です。第3は、賃金管理。65歳継続雇用による人件費のアップにどう対応するか。これが最も深刻な問題。今後確実に訪れる65歳現役時代の賃金・人事処遇制度の再設計も迫られています。


◆60歳再雇用時の賃金減額の合法性

 60歳再雇用時の賃金水準について、定年前後を通じて職務内容に大幅な変更がある場合は、賃金減額に合理性があります。これに対し、職務内容に変更がないような場合の大幅な減額の合法性が特に問題となってくるのです。
 高年齢者雇用安定法の規定は、国と事業者間の公法上の義務規定。つまり、リーガルサンセクション(法の強制方法)の観点からは、私法上の効力を有しない、とされています。再雇用するかどうかを含め、再雇用後の労働条件については、労使間の合意に委ねられており、それ以上の法の介入を認めていません。
 継続雇用制度による再雇用は、定年の到達によって従前の労働契約がいったん終了したことを前提として、再度、労使が新たな労働契約を締結するもの。労働条件はリセットされており、新たな合意は、あくまで「契約の自由」が原則の範疇に属するものです。
 裁判例も、労働条件の一方的な不利益変更には該当せず、同一労働同一賃金の原則や、均等待遇の原則の適用もなく、公序良俗に違反するものではないと判断しています(X運輸事件 大阪高判平22・9・14)。


◆60歳以降の賃金水準と決定方法

 60歳で定年を迎え、その後再雇用によって65歳になるまで継続雇用するタイプは多くの企業で採用されています。その場合の賃金水準は、通常、定年時の賃金の6割から5割程度。実は、雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付金(高年齢者雇用安定法にもとづく)は、60歳到達時の賃金に対し、61%相当額で、給付金の支給額が最高になるよう設定されているのです。つまり、この程度の賃金水準は、法が制度上織り込み済みというべきものでもあるのです。
 ただし、60歳以降の賃金決定方法、高年齢者がモチベーションを維持するために最もふさわしい賃金体系がいかにあるべきかは、別途考察されるべきです。私は、職務調査を前提とし、ジョブサイズに応じた賃金決定である職務給がベターだと考えています。人事評価はもちろん実施。評価要素は、高業績を導く行動特性を抽出し体系化したコンピテンシー評価。「専門性の向上」や「技術の伝承」を評価要素に盛りこみ、納得性と合理性を高めることができます。


◆65歳継続雇用と総人件費増加問題

 再雇用者の賃金水準の引き下げは、人件費増加問題への有効な対応策の一つです。ただし、雇用延長により企業が抱える雇用労働者は増えることになりますから、総人件費は確実に増加します。従来は、在籍者の昇給原資や新入社員の賃金原資は、退職者の人件費を充当することで賄われてきたのです。それができなくなります。
 当面の手立てとしては、年功賃金となっている賃金カーブの修正による再配分と、定期昇給(年齢給など)ストップの上限年齢を見直すこと。65歳現役時代を見据え、成果や貢献度に見合った賃金・人事処遇制度の再設計も身近な課題となっているのです。

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