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労働実務Q&Aこれで解決!

懲戒処分の法的規制

Q.

 使用者の懲戒処分は、従業員の職場秩序違反行為に対する制裁罰といわれています。しかし、本来労使関係は、労働契約を媒介にして労働者は労務提供義務を負い、使用者は賃金支払義務を負うもの。あくまで、契約、債権関係を基礎にした対等な関係です。債務を履行できないときの法的対抗手段も損害賠償請求と契約解除が原則。一方当事者のみに認められる懲戒権には特別な理論構成が必要ですし、法的規制も求められるのではないですか。

A.

 懲戒権の理論的根拠をめぐっては、見解の相違があります。経営権の一環として当然に使用者の懲戒権を肯定する固有権説と、労働契約上の合意に根拠を求める契約説との対立です。心情的には固有権説に魅力を感じます。企業秩序を維持しつつ、企業の存続という重い責任を負託されている経営者にシンパシーを感じるからです。一方、経営権という抽象的概念で特別の制裁を根拠づけるのには、理論的に少々無理があり、固有権説にも疑問があります。


◆懲戒処分の根拠規定の存在

 使用者の懲戒処分は、労働者が労働契約において具体的な同意を与えている限度でのみ可能であるとする契約説が妥当と考えます。労働者と使用者の関係を「契約」と捉える現行法の立場(労契法6条)に合致しており、実際にも、多くの企業が就業規則において規定を整備しているからです。
 契約説の考え方によると、懲戒処分の事由と手段を就業規則に規定するなどの特別の根拠が必要です。つまり、就業規則に懲戒制度を定めることによってのみ、使用者は適法に懲戒権を行使し得るのです。したがって、就業規則の定めは、限定列挙であり、厳しく解釈されるべきと考えます。
 判例も、固有権説の立場に立ちつつも、使用者が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別および事由を定めておくことが必要であると判示しています(フジ興産事件 最判平15・10・10)。


◆懲戒権濫用法理の明定

 使用者が労働者を懲戒することができる場合においても、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利濫用として無効としています(労契法15条)。
 懲戒権濫用の法的効果と判断要素を示すことにより、懲戒権の濫用的行使の防止を図っています。従来から確立されていた判例法理を再確認するために法文化されました。


◆懲戒処分に適用される諸原則

 懲戒処分が制裁罰としての性格をもつ以上、その実施にあたっては、使用者の恣意性を排除し、フェアーな手続が望まれます。ここで、参考になるのは、刑事手続を受ける場合に保障されている各種の原則です。
 ① 罪刑法定主義 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別と事由を定めておくことが必要です。どのような懲戒があるのか前もって示されていないと、行動を選択するときに不安を感じるからです。 
 ② 適正手続の保障 懲戒手続が就業規則や労働協約に規定されている場合、厳格に遵守されなければなりません。労働協約に労働組合との事前協議条項があったり、「懲戒委員会の議を経て」これを行うなどの規定がある場合です。規定がない場合でも、処分の対象者に弁明の機会を与えることが必要でしょう。
 ③ 不遡及の原則 懲戒規定をその作成・変更時点より前の事案に遡及してはならない、という原則です。
 ④ 一時不再理 二重処分の禁止ともいいます。同じ事由について繰り返し懲戒処分を行うことが禁止されます。

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