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退職後の懲戒事由の発覚と退職金

Q.

当社の就業規則は、「会社の許可なく他人に雇いいれられること」を禁止し、懲戒解雇の事由としています。もちろん退職金も支給しません。このたび退職届を提出して自己都合退職をした社員が、在職中、長期にわたり二重就職をしていた事実が判明しました。これを理由としての退職金の支払いを拒否することができますか。

A.

退職金の支払いを拒むことは困難です。いったん退職した者を懲戒処分にすることは法律上できないからです。おたずねのような不合理を阻止するには、退職金規程(就業規則)に、「退職後に一定の懲戒事由が判明したときは退職金を支払わない」旨を規定することです。このような規定があれば、既に支給していた場合でも返還請求できます。


◆退職後の懲戒解雇の意思表示

 退職金規程(就業規則)に、「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」という規定があったとしても、「退職後に一定の懲戒事由が判明したときは退職金を支払わない」旨の規定がないとき。この場合は、自己都合による退職がいつの時点で成立するかが問題です。
 退職届は、使用者の承認があるか、または、退職の申し出後2週間(民法627条1項)ないし就業規則等で定められた所定の期間を経過したときに退職の効果を生じます。したがって、いったん自己都合による退職が成立すれば、雇用関係は終了しており、あらためて懲戒解雇の意思表示をしても無効ということになります。使用者が行う懲戒処分としての解雇の意思表示は、雇用契約が存続していることを前提としているのです。ですから、退職が成立した後に懲戒解雇事由が発覚した場合でも、退職金は不支給にはできないのです。
 一方、懲戒解雇を避けるために、労働者が先手を打って非違行為の発覚前に退職届を提出してきたときは、どう対応すべきでしょうか。使用者が退職を承認しない限り、退職の申し出後の一定期間は雇用関係は継続しています。この間の懲戒処分は可能であり、法律上も有効です。このような疑いがあるときに、退職届を承認しないで、調査期間にあてるということも、企業防衛上は意味があることになります。


◆「懲戒事由判明」を不支給とする場合

 「退職後に一定の懲戒事由が判明したときは退職金を支払わない」旨の規定があるとき。このような明文規定があって、一定の懲戒事由が発覚した場合、退職金は当然不支給にできます。ただし、判例は、「二重就職」について、「労務提供に支障をきたす程度」という限定をつけているので注意が必要です。
 本来、退職金の支給義務や支給条件は、原則として、労使間の自由な契約に委ねられています。就業規則等では、会社都合と自己都合とで金額格差を設け、勤続年数別の支給率を定めています。退職金に関する規定に、退職金の全部あるいは一部を減額する旨を定めることも、同様の約定と解されています。
 ただ、このような規定があれば無制限に退職金を不支給にできるのかというと、そうではありません。判例も、単に不支給の規定があるだけでは足りず、労働者の過去の勤続の功績を抹消ないし減殺するほどの「使用者に対する顕著な背信性がある場合に限る」としています(中部日本広告社事件 名古屋高判平2・8・31)。退職金には、功労報償的性格とともに、賃金の後払いという性格を併せもっているため、社会通念の許容する範囲で不支給を是認しようとしているのです。
 既に退職金を支払っていた場合でも、退職金の返還請求はできます。もともと、支払われた退職金は、「法律上の原因」のない、不当利得(民法703条、704条)によるものだからです。

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