HOME >これで解決!労働実務Q&A>賃金・賞与・退職金>退職金の減額・不支給 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

退職金の減額・不支給

Q.

 当社の賃金規程(就業規則)には、退職金受給者の適用範囲や計算方法が定められています。退職金の算定方式は、退職時の賃金を算定基礎とし、勤続年数に応じて増額するという「基本給連動型」を採用。退職事由別係数が設定され、自己都合退職より会社都合退職の方が高くなっています。さらに、「懲戒解雇された者に対しては、退職金を不支給または減額する」という条項もあります。このような退職金規程には、どのような法的論点がありますか。

A.

 大まかに言うと、4つのポイントがあります。①退職金は労基法11条の賃金と評価されるか。②退職金の法的性格論。③退職金請求権の発生時期。④退職金減額・不支給条項の適法性と適用の当否の問題。最初の論点からお答えします。退職金に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項(労基法89条3号の2)。就業規則等で支払条件が明確に定められていれば、労基法11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、退職金請求権は労基法上の保護を受けることになります。


◆退職金の法的性格

 退職金の法的性格については、賃金後払説と功労報償説が主張されています。賃金後払説は、本来各月に支払われるべきだった賃金が退職時に後払いされるという考え方であり、功労報償説は、会社への長年にわたる貢献に報いるという考え方です。
 退職金は、一般的には賃金額を算定基礎とし、勤続に応じて加算されていくため、賃金後払的性格を有しています。何年めに退職すればいくら退職金をもらえるかが予測できるからです。
 一方、勤続による退職金額の増加は累進的であり、退職事由により支給率に差が設けてあることからすれば、功労報償的性格も有しています。
 今日、退職金制度は多くの企業で見直しがなされ、大きく変化し、多様化しています。その実態に応じて、個別的に評価、判断していくことになるでしょう。


◆退職金請求権の発生時期

 退職金請求権がいつ発生するか、についても見解の対立があります。一方は、労働契約の存続中に、勤務年数ごとに、これに応じて具体的請求権として確定していくとする説。他方は、退職金請求権は退職という事実を停止条件ないし不確定期限として発生するという説です。
 退職金の額は退職事由や勤続年数などの諸条件に照らして退職時において初めて確定するのであり、退職時までは債権として成立しているとはいえないと考えます。したがって、後説が妥当であり、判例もこの立場です。


◆退職金の減額・不支給条項の適法性

   設問にあります懲戒解雇の場合の退職金の減額・不支給条項の合理性や適法性と適用の当否が争われるケースはよくあります。退職金の法的性格や退職請求権の発生時期をどう捉えるかによって、見解が分かれるのです。
 退職金は賃金の後払いであり、勤続年数ごとに具体的請求権として確定していくという考え方によると、減額、不支給は労基法24条の賃金全額払いの原則に反し、無効であると主張します。
 退職金の功労報償的性格を重視し、退職時に初めて債権が確定するという考え方によれば、法令ないしは公序良俗(民法90条)に反しない限り、有効であるとします。
 判例や学説の多くは、後者の立場です。ただし、その適用にあたっては、永年勤続の功を抹消ないしは減殺するほどの不信行為があった場合に退職金の不支給・減額が許されると限定解釈を行っています。
 なお、懲戒解雇が有効とされる場合であっても、退職金減額・不支給の適法性は別個に判断されなければなりません。懲戒解雇の有効性を認めつつ、退職金については3割の支給を認めた裁判例(小田急電鉄事件 東京高判平15・12・11)があります。

ページトップ