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労働実務Q&Aこれで解決!

労働時間の「算定困難性」

Q.

 労働基準法には、労働時間算定に関する特則として、事業場外労働のみなし制が設けられています。
 これは、事業場外で労働しているため、使用者による労働時間の把握が難しいときに、実際に何時間労働したかにかかわらず、一定の時間労働したものと「みなす」制度。所定労働時間を8時間と定めていれば、たとえ10時間働いても8時間とみなされます。外回りの営業社員や在宅勤務など、その適用範囲は広く及ぶものと考えてよいのでしょうか。

A.

 みなし制が適用になる事業場外労働は、取材記者や外勤営業社員などの常態的な事業場外労働や、出張などの臨時的事業場外労働を含みます。ただし、事業場外労働のすべてにみなし制が適用されるわけではありません。携帯電話などの通信機器の普及により、事業場内・外で連絡がとれやすくなったという環境変化があるからです。裁判例では、みなし制が適用され時間外割増賃金の支払いが不要である、とする使用者の主張が退けられることが多くなっています。


◆事業場外労働のみなし制

 事業場外労働のみなし制は、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、かつ、労働時間を算定し難いときに、所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です(労基法38条の2第1項)。
 ただし、所の業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが通常必要とされる場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます(同項ただし書)。
 通常必要時間については、使用者と過半数代表との労使協定があれば、その協定で定める時間がその業務の遂行に通常必要とされる時間とみなされます(同条2項)。
 事業場外労働のみなし制が適用になるためには、①事業場外労働であることと、②労働時間の算定困難性、の2つの要件を充足させる必要があり、とりわけ後者の要件の解釈や判断基準が問題となっています。
 「労働時間を算定し難いとき」とは、事業場外で行われるために、労働時間を十分に把握できず、使用者の具体的指揮監督を及ぼし得ない場合をいいます。使用者が主観的に算定困難と認識すれば足りるというものではなく、客観的にも労働時間を把握・算定し難い場合であることを要します。厳格に解さないと、割増賃金の支払いを不要とし賃金面で労働者が不利益を蒙ってしまうからです。


◆阪急トラベルサポート事件最高裁判決

 旅行会社が企画・催行する国内・海外ツアーのために派遣会社から派遣された添乗員の添乗業務について、労働時間の「算定困難性」が争われた事案で、注目すべき最高裁判決がありました。みなし制の適用を否定する立場を明らかにしたのです。
 判決は、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の業務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう『労働時間を算定し難いとき』に当たるとはいえないと解するのが相当である」としました(阪急トラベルサポート事件 最判平26・1・24)。
 添乗員は旅行会社から旅程の管理業務を具体的に指示され、添乗日報によって業務の遂行状況につき事後に詳細な報告を受けるものとされていたこと等、の諸事情が斟酌されたものです。
   この判決により、在宅勤務の場合(平16・3・5基発0305001号)を除いて、本条が適用される場合は、非常に狭くなったということができます。

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