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労働実務Q&Aこれで解決!

安全配慮義務

Q.

 労働災害が起きたとき、使用者は、労災保険法で定める労災補償を被災労働者に行えば、その範囲で民事賠償責任を免れることが法律上認められています。反面、労災保険の給付の価額の限度を超える損害については被災労働者や遺族から民法上の損害賠償責任を追及される可能性も残されているわけです。最近、過労死や過労自殺をめぐって、裁判で企業の責任を問われる事案が増え、賠償額も高額になっているとか。その法的根拠は何ですか。

A.

 使用者が民事上の損害賠償責任を追及される法的構成としては、大まかに2つのものがあります。1つは、故意・過先により第三者に損害を生じさせた場合の不法行為責任(民法709条、715条、717条)。もう1つは、債権・債務の契約関係当事者間で生じた債務不履行責任(民法第415条)。今日では、後者の請求の理論的根拠となっている使用者の「安全配慮義務」が判例法理として確立しており、労働契約法5条に明文化されるに至っています。


◆安全配慮義務の意義

 もともと安全配慮義務は、全くの他人である第三者間ではなく、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」(自衛隊車両整備工場事件 最判昭50・2・25)という理論構成を端緒としています。
 そこから使用者は、「報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(川義事件 最判昭59・4・10)を負う、と定義されるに至りました。
 平成19年に制定された労働契約法は、このような判例法理を確認し、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」(5条)と規定し、使用者の労働契約上の安全配慮義務を立法上明らかにしたのです。
 なお、安全配慮義務を負うのは労契法2条にいう使用者(雇用主)に外なりません。ただし判例は、「特別な社会的接触関係」にあるとして、雇用主以外に義務主体を拡張させているので、注意が必要です。


◆安全配慮義務の内容

 安全配慮義務は、契約上の債務の一種であり、義務違反をした者は、債務不履行による損害賠償責任を負います(民法415条)。
 契約上の債務不履行責任と不法行為責任(民法709条等)の相違点は大きく次の2点です。第1は、損害賠償債権の消滅時効期間。不法行為では、原則として3年(民法724条)であるのに対し、債務不履行責任は10年(民法167条)。第2が、立証責任。不法行為であれば労働者側が故意・過失の立証責任を負うのに対し、債務不履行責任であれば、使用者側が故意・過失その他の帰責事由の不存在の立証責任を負うことになります。一般的には、債務不履行構成の方が労働者に有利のように見えます。
 ところで、安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なると解されています。問題となるのは、この安全配慮義務の具体的内容を特定し、かつ義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、被災労働者側にあるとされていることです。これは立証原則に従った結果です。
 しかし、被災労働者側と使用者側には、当該事故原因に関して圧倒的情報格差があることも事実。実際の裁判例においては、安全配慮義務違反の推定をしたり、帰責事由不存在の具体的な立証を使用者側に要求するなどして、実質的な立証責任の転換が図られているようです。被災労働者側の立証の困難さに配慮し、立証活動の公平化が図られているのです。

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