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労働実務Q&Aこれで解決!

企業倒産時の賃金保護

Q.

勤め先の会社が、給料日に給料全額を払ってくれず、遅配ぎみです。従業員の間では、倒産するのではないか、という声も出はじめました。もし会社が倒産した場合、未払いの給料や退職金は支払ってもらえるのでしょうか。会社が支払えないときに国が立替払いをしてくれる制度があるそうですが、誰でも利用できるのですか。

A.

賃金の未払いがあれば、労基法違反で労働基準監督署に支払いの命令をしてもらえます。会社が万一倒産したときには、その処理方法の選択により、賃金保護の度合いが異なってきます。会社更生法や民事再生法では比較的優先的に保護されますが、破産や任意整理では優先度は低くなるのです。また、未払賃金の立替払制度を利用するには、一定の条件が必要です。


◆倒産処理による賃金債権の優先順位

 未払いの賃金や退職金のことを労働債権といい、従業員は他の債権者と同じように、破綻企業や管財人に支払いを要求できます。ただし、倒産処理の方法により、支払いの優先順位が異なってきます。
 まず会社更生法による更生手続。「再建型」倒産処理の代表格で、主として大企業を対象とした制度です。営業継続のために労働者を確保する必要から、賃金債権は比較的手厚く保護されています。すなわち、更生手続開始決定前6ヵ月間に発生したものと、更生手続開始後に発生したものは、共益債権として更生手続によらず随時弁済されます。納期の来ていない税金と同順位で、抵当権付債権より優先されます(130条、132条)。
 同じく「再建型」の民事再生法は、和議法に代わり、平成11年に創設された制度です。こちらは主として中小企業を対象としています。民事再生手続では、一般先取特権(労働者が使用者の総財産の上にもつ担保物権)を有する賃金債権については、一般優先債権として、再生手続によらず随時弁済されます(122条)。抵当権付債権に次ぐ扱いを受け、税金と同等の優先権が認められています。 
 倒産法制のなかにあっても破産法による破産手続では、優先順位は低くなります。破産は、すべての資産を分配して会社を消滅させる方向で倒産処理をする「清算型」に属するのです。一般先取権を有する賃金債権は優先破産債権とされ、配当手続のなかで優先弁済を受け(39条)、それ以外は一般の破産債権となります。
 任意整理や私的整理においては、法規制がないので、労働債権は抵当権付債権や税金等より順位は低く、未払い賃金が支払われないケースも出てきます。経営破綻のうち、7割以上が任意整理として処理され、この場合“早い者勝ち”の状態になるのです。


◆未払賃金の立替払制度

 「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づき、企業倒産時において国が事業主に代わって賃金の立替払いを行う仕組みが設けられています。
 未払賃金の立替払いを受けるためには、事業主、労働者について次のような条件が必要です。事業主は、労災保険法が適用される事業主であって、1年以上の期間にわたって事業を行っていること。労働者は、事業主が倒産に陥る日の6ヵ月前の日以降2年間に退職して、賃金や退職金を支払われなかったこと。
 倒産には、法律上の倒産だけでなく、事実上の倒産も含まれ、実際には労働基準監督署が企業倒産を認定し、労働福祉事業団が立替払いを行います。
 立替払いされる賃金の額は、全額ではなく、未払い分の80%相当です(ただし、退職時の年齢に応じて88~296万円の範囲で上限がある)。立替払いの費用は、労災保険の労働福祉事業の一環として労災保険料で賄われています。

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