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労働実務Q&Aこれで解決!

配転命令の拒否

Q.

当社の就業規則は、「業務上必要のあるときは、配置転換を命ずることがある」と定めています。このたび、ある従業員に大阪事業所への転勤命令を発令したところ、自宅を新築したばかりで、子どもが受験期のため、単身赴任とならざるを得ず、承服できないと返答してきました。業務命令違反として懲戒解雇を検討していますが、留意すべきことがありますか。

A.

就業規則にそのような配転条項があり、職務や勤務場所についての限定特約がなければ、配転命令は有効と考えられます。ただし、権利の濫用となるような特別の事情があれば無効とするのが判例法理なので、注意が必要です。とくに労使のトラブルが背景にあり、使用者側に、嫌がらせや追い出し目的があると認定されると、当然不利になります。


◆配転命令の根拠

 配置転換、いわゆる配転とは、同一企業内で、従業員の職務内容または勤務場所を変更する人事異動をいいます。このうち、同一勤務地での所属または職種の変更を「配置替え」といい、勤務地の変更を伴うものを「転勤」といいます。このような意図的または計画的な人事異動であるジョブローテーションは、企業戦略に適った人員の配置、人材の育成・能力開発あるいは士気の維持・高揚を目的として、わが国企業では活発に実施されています。
 この配置転換は、使用者の人事権に基づく業務命令によって行われます。使用者の配転命令の法的根拠―これは法文にはありませんが、労働契約にあります。すなわち、就業規則の条項は、それが合理的なものであれば、労働契約の内容となる、というのが判例の立場です。通常、企業が定めている配転条項は、長期雇用システムを機軸としている人事制度のもとでは合理性が認められ、労使間の労働契約において配転命令を容認する合意が成立している、と考えるのです。したがって、使用者は、個々の従業員の同意を得ることなく、従業員の勤務地を決定する権限を有しており、従業員は、原則として配転命令に従わねばならないのです。


◆配転命令権の濫用

 使用者の配転命令権が肯定されるとしても、その命令を有効とすべきでない特別の事情があれば、配転命令は権利の濫用として無効となります(民法1条3項)。この点について、東亜ペイント事件の判決は、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき」と、権利濫用となる場合の基準を示しています(最二小判昭61・7・14)。
 その一は、業務上の必要性が存しない場合。通常は高度の必要性は求められていませんが、使用者側に嫌がらせや追い出し目的があったと認定されてその必要性を否定し、配転命令を無効とした下級審の判例があります。
 そのニは、不当な動機・目的がある場合。労働組合活動を弱体化あるいは、報復目的で組合の活動家を遠隔地へ転勤させる場合等が考えられます。
 その三は、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益がある場合。たとえば、従業員の家族の中に障害者や病人がいて、従業員自ら介護や世話をしなければならないという厳しい家庭状況にある場合です。
 おたずねのケースでは、この3つめの基準に該当するとはいえないでしょう。配転に関する限り、判例法理は企業に広い裁量権を認めているのです。なお、配転命令が有効であれば、懲戒解雇もできますが、解雇の前に、十分な説明や説得をすることも必要です。

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