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労働実務Q&Aこれで解決!

解雇ルールの明文化

Q.

労働基準法は、業務災害によって休業した者や出産前後に休業している女性の解雇を禁じており(19条)、解雇予告の手続(20条)も定めています。このたびの法改正により、右に加え、解雇の理由について法律上許されない場合が明文化されたと聞いています。その内容や趣旨等を教えて下さい。

A.

今回の改正(平成16年1月1日施行)で、最高裁判決で従来から確立している解雇権濫用法理が条文として新設されました。すなわち、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と、18条の2に定められたのです。解雇をめぐる労使紛争が増加しており、広く周知させる目的で法文化されたのです。


◆解雇権濫用法理の法制化

 解雇とは、使用者の一方的意思表示により雇用契約を解除することをいいます。使用者による労働者の解雇は、原則自由です。労基法には定めがありませんが、「一般法」である民法に、期間の定めのない雇用契約は、14日前に予告すれば、いつでも自由に解約することができることになっているからです(627条1項)。
 しかし無制約ではなく、これまでも、合理的理由のない解雇が裁判で争われたケースについては、解雇権濫用法理によって無効と判断されてきました。最高裁は、日本食塩製造事件において、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」(最二小判昭50・4・25)と、この法理を定式化してきました。ただ、その法的根拠が民法の一般条項である権利濫用禁止規定(1条3項)にあるため、労基法に固有の根拠規定を設けることが模索されてきたのです。判例で確立されている解雇ルールをあえて法制化した理由は、「労働契約の終了が労働者に与える影響の重大性を考慮するとともに、解雇に関する紛争が増大している現状にかんがみると、労働契約のルール及び手続をあらかじめ明確にすることにより、労働契約の終了に際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決が必要である」(厚生労働省の労働政策審議会の建議)ためと考えられます。
 この新設規定で、立証責任の実務が変わるのかが懸念されていました。衆参両院の附帯決議では、「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」としています。また新条項は、民事上の法律効果を規定したもので、使用者に義務を負わせるものではありません。したがって、権利濫用の有無の判断は、監督署ではなく、従来どおり裁判所で行われます。


◆解雇関連規定の整備

 解雇にかかわる諸規定の整備も行われました。
 その一は、就業規則の記載事項(89条3号)。就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に「解雇の事由を含む」ことが明記されました。使用者は、就業規則に、解雇の事由を規定し、周知させる義務を負うことになります。
 その二は、労働条件の明示(15条、施行規則5条)。労働契約の締結に際し、使用者が書面の交付により明示すべき労働条件の「退職に関する事項」に「解雇の事由を含む」ことが省令で定められました。
 その三は、解雇理由の明示(22条2項)。解雇を予告された労働者は、予告日以降退職の日までに、使用者に対し、解雇理由を記載した文書を請求できることになりました。解雇をめぐる労使のトラブルを未然に防止し、迅速な解決を図ることがその目的です。

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