監督機関への申告
Q. 私が勤務している会社の特定の部署においては、サービス残業が横行し、これに不満な者は、解雇予告もなく即日解雇されています。会社全体に飛び火しそうな勢いであり、労働基準監督署に是正指導をお願いしようと考えています。解雇された本人でなくてもできますか。報復として会社から何らかの不利益な取扱いを受けるのではないかと心配です。 |
A. 労働者は、労基法違反の事実を監督機関に申告することができ、この申告を理由とする不利益扱いは禁止されています。違反の事実は、申告者本人の権利救済に限られず、事業場の労働者全般に関するものであってもかまいません。企業の法令遵守が主目的であり、先般成立した公益通報者保護法の先駆けともいえる法制度です。 |
◆監督機関への申告権と保護
労働基準法は、「事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督署に申告することができる」(104条1項)と定めています。
この規定の趣旨を、申告者本人の権利利益の保護を主目的としたものとみる見解もありますが、制度本来の趣旨は、企業の法令遵守の徹底という公益保護を主目的としたものと捉えるべきでしょう。つまり、監督機関の摘発を待っていたのではその実効性を確保できないので、労働者に申告権を保障することによって、監督機関の権限の発動を促そうと期待しているのです。申告者本人の権利救済はあくまで副次的なものです。したがって、「違反する事実」は、申告者本人の権利救済を目的とするものに限らず、事業場の労働者全般にかかわるものであってもかまいません。
「申告」とは、違反事実を告げ、監督機関の権利の発動を促すことをいいます。ただし、監督機関は違反の申告を受けても、調査などの措置をとるべき職務上の義務を負わないと考えられています(東京高判昭56.3.26)。
労基法104条2項は、「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」としています。「不利益な取扱い」とは、解雇のほかに昇給、昇進、昇格について他の者に比べて不利益な取扱いをすることをいいます。この規定は強行規定であり、企業が不利益扱いを行うと、その効力は無効とされます。
おたずねのように、残業代の不払いや解雇手続を無視した解雇は、労基法に違反する事実であり、事業場の労働者にかかわるものですから、申告することができます。たとえ不利益扱いを受けたとしても無効であり、使用者は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(119条1号)
◆監督機関の権限と使用者の義務
法令の遵守や法規制の実効性を確保する手段として、監督機関の権限と使用者に課されている義務についてふれておきましょう。
法の運用を迅速かつより効果的に行う機関が労働基準監督署であり、そこに配置されている労働基準監督官です。労働基準監督官の権限の第1は、事業場の臨検、書類提出要求、尋問の権限です(101条)。第2は、労基法違反の罪について司法警察官の職務を行うことであり(102条)、逮捕、差押え、捜索等を行うことができます。
一方、監督行政に資するために、労基法は、使用者にいくつかの義務を課しています。法令や就業規則等の周知義務(106条1項)、労働者名簿の作成(107条)、賃金台帳の作成(108条)等です。また使用者は、労働者名簿、賃金台帳、雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(109条)。
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