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労働実務Q&Aこれで解決!

選考基準等の開示請求

Q.

この4月から個人情報保護法が完全実施されます。同法によると、個人情報取扱事業者が、本人から、保有個人データの開示請求をされたときは、遅滞なく開示しなければならないとのこと。当社ではかねてより、不採用となった人からの選考基準や成績の問い合わせに対し、非開示としてきました。この取扱いを続けることは法的に問題がありますか。

A.

法律は、例外として、非開示事由も列挙しており、本件では、その「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に該当すると考えます。個人情報保護法は、あらゆる業界を対象とした抽象的表現にとどまっており、主務大臣が所管する業界に特化した「ガイドライン」や「指針」で補足し、法解釈や対応を考えていくべきでしょう。


◆原則開示と非開示理由

  採用から雇用管理、退職に至るまでの企業の人事情報は、履歴・所得・健康・評価など、デリケートで秘匿性の強い個人情報を含んでいます。しかし、個人情報保護法は、労働者に関わる個人情報を適用除外または別扱いにしておらず、法の全面施行後は、開示に応ずることが原則となります。
  すなわち、「個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない」と定めているのです(個人情報の保護に関する法律25条)。
  ただし、開示することにより、①本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれのある場合、②当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、③他の法令に違反することとなる場合には、その全部または一部を開示しないことができる、という例外規定を設けています(同法25条1項1号~3号)。
  採用における選考基準や成績結果を開示しなければならないかどうかは、例外の②の「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に該当するか否かの解釈にかかってくるのです。


◆非開示の実質的・形式的根拠

  企業は、どのような資質を持っている人間を採用し、それをどのような基準で選択するか、という採用の自由をもっています。採用選考は、まさに企業の盛衰を左右する最重要事項であり、経営者の判断に委ねられるべきものです。競争が激化している今日では、付加価値をつくり出していく創造性豊かなプロとなりうる人材を見抜かなくてはならない緊張感のあるフェーズ。したがって、企業は当初より開示を想定しておらず、どちらかというと公開にもなじまないものです。一旦採用すれば解雇することが困難な日本の長期雇用システムのもとでは、一層慎重かつ厳密に行わざるを得ません。また、繰り返しもしくは大量の開示請求は、業務を停滞させます。つまり情報開示は、適切な評価、判断を妨げ、採用業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるのです。
  旧労働省が策定した「労働者の個人情報保護に関する行動指針」は、「請求があった個人情報が、請求者の評価、選考等に関するものであって、これを開示することにより業務の適正な実施に支障が生ずるおそれがあるとみとめられる場合」には、開示に応じなくてもよいとしています。
  したがって、法25条1項2号の「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められる場合」に該当し、開示請求に応ずる法的義務はないと考えるのです。
  なお、厚生労働省が示した「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき指針」では、労働組合等と協議のうえ非開示とする旨定めることが望ましい、としています。

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