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労働実務Q&Aこれで解決!

退職の意思表示

Q.

直属の上司から、仕事上のミスをねちねちと注意されたので、つい感情的になって翌日退職願を提出しました。後から冷静に考えると、いわゆるリストラの一手段として、退職を誘発したのではないか、という疑念も湧いてきます。退職願を撤回することができますか。撤回できないとしても、巧妙な退職勧誘策への救済手段はないのでしょうか。

A.

退職願は、法的には合意解約の申込と解されています。したがって、使用者が承諾の意思を表明するまでは、撤回できます。ただし、いつの時点で承諾と認定するかについては、微妙な問題です。退職の意思と表示に不一致があれば、取消や無効の主張も可能ですが、この程度の誘導の態様では、成立は困難でしょう。いったん退職願を出すと、立場は弱くなります。


◆合意解約と辞職

  姑息な方法ですが、リストラの一手段として合意解約や辞職が利用され、労働紛争に発展するケースが増えているようです。というのも使用者が労働者を解雇する場合、解雇予告(労基法第20条)、あるいは、解雇権濫用法理(同法第18条の2)という厳しい法律上の制限が加えられているからです。会社としては、気に入らない従業員は自発的に辞めてもらうことが、面倒もなくありがたいというのがホンネのところなのです。
  そこで、退職願の提出という退職の意思表示が、合意解約の申込なのか、それとも辞職なのかがまず問題となります。
  合意解約とは、労働者と使用者が(申込と承諾という)合意によって労働契約を解約することです。これに対し辞職とは、労働者が労働契約を一方的に解約することをいいます。つまり、合意解約の申込と解すると、使用者の承諾の意思表示がない間はいまだ法的効力が発生していないため、撤回の余地がありうるのに対し、辞職とすると、解約の意思表示が使用者に到達した時点で効力を生じ、撤回できないことになるのです。
  本事案では、合意解約の申込と解するのが労働者の意思に合致していると考えます。判例もその多くを合意解約の申込とみる傾向にあるようです。撤回可能な余地を残す方が労働者保護に資するという配慮の結果です。
  つぎに、労働者の合意解約の申込に対し、会社側のいかなる行為が承諾となるかが、問題です。
  最高裁は、辞令書等の方式によらず口頭で構わないとする一方で、人事部長が退職願を受理したことが、使用者の承諾の意思表示となりうると判示しています(最判昭62.9.18)。この問題は、会社内部において、退職の申出に対する承認の権限が実際にどの部署に与えられているのかという事実判断にかかってくると思います。


◆退職願の取消・無効

  退職願の提出を合意解約の申込と解釈しても、使用者が即時に承諾したと認定されれば、もはや如何ともしがたい事態。残るは、退職願の意思と表示が食い違っていることはなかったかという、民法の意思表示規定の検討事項になります。
  たとえば、懲戒解雇の事由がないにもかかわらず、懲戒解雇されると誤信してそれを避けるために、自ら退職の意思表示をした場合は、詐欺による取消(民法第96条)、または錯誤による無効(同法第95条)の主張が考えられます。さらには、使用者または第三者が労働者に畏怖を生じさせて退職の意思表示をさせたような場合には、強迫による取消(同法第96条)も認められうることになります。
  ただし、労働者の退職の意思と表示の不一致があったとされる事例は、そう多くはないと思われます。労働者は、いったん退職願を提出してしまうと脆弱な立場となってしまうのです。

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