残業代の定額払い
Q. 生産性の向上および残業代の削減を目的として、残業手当の定額支給を検討中です。手当の額については、職種、職場ごとの平均残業時間を捕捉し、一年にならしてそれを上回る水準(決算期に若干残業が増える傾向がある)に設定します。支払方法は、従来からある営業手当、職務手当に上乗せの予定です。このような方策に法的な問題がありますか。 |
A. 残業代を定額で支給すること自体は違法ではありません。ただし、従業員が実際に残業した時間の割増賃金が定額の残業代を超えた場合は、その差額を支払う必要があります。また定額の手当額のうち、どの部分が残業代に相当する部分か明確に区分されていなければなりません。これらの条件を満たさないと「賃金不払い残業」となるので注意が必要です。 |
◆残業手当の定額支給の留意点
まずは、残業手当の定額支給の可否について。
労働基準法37条は、例外的な過重労働に対し、割増賃金という特別な補償を使用者に義務づけています。その基本的スタンスは、実際に行われた時間外労働に対して、一定額以上の割増賃金が支払われていればよしとするもの。つまり、法が定めた計算方法による割増賃金を下回らない限りは適法とする趣旨であり、法所定の計算方法を用いることまで要求しているものではありません。
したがって、法所定の割増賃金に代えて、一定額の手当を支払うという方法も法的には十分可能で、何ら問題はないのです。
ただし、あくまでも一定の手当額が法の定める割増賃金を上回っている限りにおいて適法というだけのことです。実際に行われた残業が多く一定の手当額の方が支払うべき割増賃金額を下回る場合は、一定の手当額に加え、その差額を支払う必要があるのです。
判例も定額払いが「法所定の計算方法による割増賃金を上回る以上、割増賃金として一定額を支払うことも許されるが、現実の労働時間によって計算した割増賃金が右一定額を上回っている場合には、労働者は使用者に対しその差額の支払いを請求することができる」(関西ソニー販売事件 大阪地判昭63.10.26)としています。
そこでお尋ねのように、1年にならして残業時間を捉えるという考え方には、少々無理があるようです。そもそも、残業手当も月例賃金であり、賃金の「毎月1回払い」の原則(労基法24条)により、その月ごとに精算しなければならないのです。
◆割増賃金相当部分の特定
つぎに、定額支給の支払方法ですが、営業手当や職務手当に含める形で支払いの予定でおられます。
このように手当の中に残業代を含めるというケースにおいては、とりわけ一定額の手当のうち、どの部分が残業代相当部分、すなわち割増賃金相当部分にあたるのか、明確に区分されていることが必要です。従来の手当に上乗せするということなので、当初は区分可能であっても、年月が経つうちに判別が困難になることもあります。
なぜこのような区分が必要かというと、残業時間に対する割増賃金額を特定できないと、残業手当の額が適法であるかどうかの判断さえできなくなってしまうからです。不特定にすることは、労基法37条の趣旨を潜脱する行為とみなされても仕方のないことなのです。
判例も、同じような事例で「割増賃金の趣旨で支給された右手当のうち、どの部分が同条所定の割増賃金に相当するか明確に峻別できなくてはならない」(共同輸送賃金等請求事件 大阪地判平9.12.24)としています。したがって、定額制にするのであれば、むしろ新たな手当項目をつくる方がフェアーといえるのではないでしょうか。
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