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労働実務Q&Aこれで解決!

採用内定

Q.

当社の営業職社員の定期採用に応募した新規学卒者10人に対し、昨年7月に内定通知を出しました。その内のある学生については陰気な印象が懸念されたものの、とりあえず束縛という社命を優先させました。しかし今年の1月に実習を行って観察したところ、やはり適性がないことが判明。この学生について、採用内定の取消しができるでしょか。

A.

どの法律にも直接の規制がなく、契約論を応用して解決策を探ります。要は、どのような理論構成で、内定者と会社側のどちらを保護すべきか、に帰着します。判例は、内定の段階で特殊な労働契約が成立するとし、不利益を強いられる内定者に同情的です。この立場からは、採用内定時に会社側が知っていた事由による内定の取消しはできないことになります。


◆採用内定の法的性質

  正規従業員の採用は、時系列的にみると次のようなプロセスをたどります。まずは会社側の社員の募集。これに学生が応募します。採用試験や面接などの選考を経て、採否の決定。会社は合格者に対し採用内定の通知を出し、学生はこれに対し誓約書や身元保証書などを提出。その後は、社内報の送付、会社見学、あるいは入社前の研修や実習などがなされるようです。晴れて卒業になると、4月1日入社となり、辞令の交付を受けます。
  このような経過のなかで、卒業まぎわになっての採用内定の取消しが許されるのかどうか、がここでの問題です。かつて、採用内定の法的性格をどうすべきかをめぐって裁判例が相次ぎ、学説や判例が蓄積されてきました。
  当初主張されたのは、内定から入社までの一連の手続全体が契約過程にあるとする労働契約過程説と、卒業のうえで改めて労働契約を締結する旨の予約が成立しているという労働契約予約説。しかしこの両説とも、会社の恣意的取消しに対し、期待権の侵害や予約の不履行を根拠に損害賠償の請求は認めるものの、労働契約の存在確認を訴求しえないという点で内定者の保護に十分ではありませんでした。
  最高裁は、大日本印刷事件(最判昭54.7.20)で、労働契約成立説を採用。論争に決着がつけられました。その結果、内定取消しに対しては、損害賠償の請求と併せて、雇用関係の存在を主張してその履行強制もできることになります。
  その結論を導く理論構成は次のとおりです。会社の社員の募集は「申込みの誘引」であり、これに対する応募が労働契約の「申込み」になります。会社からの内定通知は、申込みに対する「承諾」となるのです。ただし、就労の「始期」は卒業後の入社日であり、誓約書記載の内定取消事由にもとづく「解約権を留保」した特殊な労働契約が成立しているというのです。厳密にはこれを、「解約権留保付始期付労働契約」と呼びます。


◆内定取消しの法的救済

  内定者の法的救済すなわち採用内定取消しの適法性は、留保された解約権の行使の適法性の問題となります。通常、採用内定通知書や誓約書には、卒業できなかったときとか、重い病気にかかったり、犯罪を犯したこと、などが「取消し事由」とされており、これを判断材料として成否をジャッジすることになるのです。本事案では、「前各号に準ずる事由の起こったとき」という一般条項を理由とすることが予測できます。
  先の判例は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」という限定を付しています。社会通念による合理的解決という絞りをかけているのです。この観点からは、書面で列挙されている場合に限られ、本件のように採用内定時に使用者側が知っていたかまたは知ることができた事由による採用内定取消しはできない、ということになります。

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