公益通報者保護法への対応策
Q. 創業以来、「礼節、フェアプレー、問題解決」を経営理念に掲げ、社員には、常日ごろ道徳規範の重要性を説いてきました。しかし世間では、従業員の内部告発によって企業不祥事が発覚する事例が続発。これを背景に、内部告発保護法制も整ったとか。ただ、私どもの社風からみると、社員間に猜疑心を生み出す法制度には違和感を禁じえないのですが‥‥。 |
A. 内部告発保護法制へのスタンスには、企業外部への告発を積極的に奨励すべきという考え方と、まずは企業内部への通報を優先させるべきという考え方があります。4月から施行される公益通報者保護法は、企業の自浄作用を尊重して後者の考え方に基づいて設計されています。内部告発を回避するためには、内部通報システム等の整備、構築が急がれます。 |
◆コンプライアンス経営のすすめ
コンプライアンスは、法令を遵守すれば事足りるというわけではありません。社内ルールはもちろん、道徳や倫理といった社会規範を尊重し、守ることも含まれます。法律は「最低限の道徳」にすぎないのです。何よりも企業倫理を確立し、その実践とリスク管理ができる社内体制を整備することが重要なのです。なぜでしょうか。
企業わけても法人は、社会的実体をもつゆえに法律によって「法人格」を付与されたもの。いわば「社会の公器」ですから、公正さが求められるのは当然であり、社会的責任でもあるのです。
企業の不祥事が発覚すると、様々な社会的制裁を受け、破綻にまで追いこまれる例は枚挙にいとまがありません。目立つのが、規範意識が欠けた経営トップの言説や弁明です。企業が売りたい商品、製品、サービスだけでなく、企業全体の信用失墜にたちまち直結してしまう。まことに“雄弁”です。経営者は、前例から「学習」しなければなりません。
これからは、おたずねのような倫理性の高い企業が社会から評価され、競争優位性を発揮して生き残ることができるでしょう。
◆急がれる内部通報システムの構築
公益通報者保護法は、公益通報者(内部告発という言葉を避けている)の保護と、事業者の法令遵守を図ることを目的にしています(1条)。
一定の要件を満たす公益通報者の解雇は無効とされ(3条)、降格、減給その他の不利益な取扱いが禁止されています(5条)。
この法律によって保護される「公益通報」とは、①労働者が、②不正の目的ではなく、③通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしている旨を、④(a)事業者内部、(b)行政機関、(c)その他の外部に、⑤通報すること、をいいます(2条1項本文)。
この法律の特徴は、事業者内部への通報、行政機関への通報、その他の外部への通報ごとに異なる保護要件を設けていること(3条1号~3号)。後にいくほど保護要件が加重され、ハードルが高くなっています。逆にいうと、事業者内部への通報の要件を緩和して、その促進を図っています。そして、コンプライアンス体制が整備できている企業の場合には、たとえ外部に通報しても通報者は保護されにくい設計になっているのです。つまり法は、企業に対し、コンプライアンス体制の確立、就中、内部通報システムの構築を誘導しているのです。
企業に内部通報システムが構築され、事業者内部への通報が促進されれば、企業自身が早期に問題を発見することができ、適切な対応が可能となります。内部告発のリスクは低減し、コンプライアンス経営の実現に資することは明らかです。
内部通報システムは、法令違反等の問題を自浄することができる「仕組み」づくり。通報窓口の設置だけでは十分でありません。どのように制度設計し、導入し、運用するか、それが今後の課題です。
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