通勤災害の範囲
Q. 夫は勤務先に単身赴任をしており、普段は借家から会社へ通勤をしていますが、月2回程度は家族が住むわが家へ戻ってきます。また息子はゲームソフトの販売店と書店のアルバイトを掛け持ちで働いています。夫が借家と持家の間を移動しているときや、息子が職場と職場の間を移動している途中で災害に遭った場合に、救済される途がありますか。 |
A. 従来より、通勤災害保護制度による「通勤」とは、「住居と就業の場所との間」を往復することとされており、お尋ねのケースは保護の対象外でした。今年の4月1日より、通勤災害の範囲が拡大。単身赴任者の住居間の移動や複数就業者の事業場間の移動も労災の保険給付を受けられる「通勤」に含められ、新たに保護の対象となりました。 |
◆通勤災害保護制度の要件
通勤災害については、業務災害に準じて労働者災害補償保険法により保護されています。この通勤災害保護制度は、使用者の災害補償責任(労基法第8章)から切り離された一種の社会的危険による災害として位置づけられ、次のような認定要件が課されています(労災法7条2項、3項)。今回の改正で②(b)(c)が新に付加されたのです。
①労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡であること。
②通勤とは、労働者が、就業に関し、(a)住居と就業の場所との間の往復、(b)就業場所から他の就業場所への移動、(c)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法により行うことをいい、業務の性質を有するものでないこと。
③労働者が、当該往復または移動の経路を逸脱または中断していないこと(ただし、逸脱または中断が日常生活上必要な行為であってやむを得えない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱または中断の間を除きこの限りではない)。
◆複数就業者の事業場間移動
二か所の事業場で働く労働者が、一つめの就業場所で勤務を終え、二つめの就業場所へ向かう途中で災害に遭った場合(三か所以上の事業場で働く場合も同様)、通勤災害として保護されます。
その趣旨は、当該移動が第二の事業場へ労務を提供するための不可欠な行為といえるから。複数就業者の数が増加傾向にあるなかで、住居と事業場までの移動に準じて保護する必要性が高くなったのです。雇用をめぐる環境変化に応じて、不可避的に生ずる社会的リスクと評価できるまでになったのです。
保険関係の手続、処理については、性質上第二の事業場が担うことになります。ただし、給付のもとになる給付基礎日額は、複数事業場から支払われる賃金を合算。労災保険は、あくまでも被災労働者の稼得能力の補填を目的としているからです。
◆単身赴任者の住居間移動
単身赴任者が、赴任先住居と帰省先住居との間を移動している途中に災害に遭った場合も、通勤災害になります。
単身赴任者についても、その数が増加しているという経緯があり、見直しを迫られたのです。単身赴任者の住居間移動は必然的に行わざるを得ないものであり、単に私生活上の損失として放置できないものとなってきたのです。
保護の範囲については、無条件ではなく、業務との関連性から一定の絞りがあります。たとえば、勤務日当日またはその翌日の赴任先住居から帰省先住居への移動。勤務日当日またはその前日の帰省先住居から赴任先住居への移動。これらについては、原則として通勤災害保護制度の対象とすることが適当とされています。
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