整理解雇
Q. 従業員40人で、金属製品製造業を営んでいます。3部門のうち、不採算部門が1つ(8人所属)あり、需要の低下により5年前から赤字を累積しています。このため、新規採用は控え、残業も抑制、役員報酬の減額も実施しました。配転は不可能です。従業員全員を路頭に迷わすことだけは避けたいので、この部門を閉鎖し、8人を解雇したいのですが‥‥。 |
A. 会社が一丸となって経費節減に努めてきたが、好転せず、余剰人員の削減に手をつけざるを得ない。労働者には何ら帰責事由はありませんし、会社にも同情すべき点があります。ただ、残る従業員の雇用を守り、事業を存続させるという“大義”があります。全従業員に対し、会社の窮状をオープンに話し、苦渋の選択であることの理解を得るのが第一歩です。 |
◆整理解雇の判例法理
整理解雇とは、事業の存続を目的として、余剰人員を削減するための解雇をいいます。整理解雇に関する実定法規はありませんが、判例法上、解雇権濫用法理を発展させた整理解雇法理が確立されています。整理解雇が認められるための4つの要件です。
① 人員削減の必要性
会社の経営状態が人員整理を必要としているということです。ただし、人員削減をしなければ倒産必至というほど切迫した事態である必要はない、とされています。
② 解雇回避努力義務
解雇回避努力をしているかどうか。整理解雇は「最後の手段」でなければならないということです。たとえば、残業規制、新規採用の停止、パートの雇止め、配転・出向、一時帰休、希望退職の募集等、雇用調整措置やコストダウンの手段を講じたかどうかが問われるのです。
③ 被解雇者選定の妥当性
だれを解雇するかについての基準、つまり被解雇者の選定は、客観的で合理的な選定基準に従ったものであることを要します。公正な適用、公平な人選ということです。
④ 協議・説明義務
使用者は、労働組合または労働者に対し、整理解雇の必要性や方法について、協議・説明を行う信義則上の義務があります。前の3つの要件が実体的要件であるのに対し、この要件は手続的要件といえます。
◆整理解雇法理の柔軟な適用
整理解雇法理は、多くの裁判例の積み重ねの中からエッセンスを抽象し、定式化されてきたのもであり、時代や事案をこえて画一的に適用できるものではありません。
第1に、解雇回避努力義務における雇用調整のパターンは、主として大企業で採用されているものです。中小企業では、資金的余裕に乏しく、おだやかで消極的な雇用調整の手順を踏むまでもなく、いきなり倒産に追いこまれるケースもあるでしょう。賃金保障が不可欠な一時帰休はできませんし、配転・出向の受け入れ先も少ないというのが実情です。
第2に、人員削減の必要性に関しては、裁判所は、使用者の経営判断を尊重する姿勢がうかがえます。使用者は、従業員とその家族の生活を守っていくために、事業の存続・発展の重責を担っているのであり、そのような責任を負わない第三者あるいは専門家でもない者が気軽に介入すべき問題ではないからです。
第3に、最近の裁判例は、整理解雇の4要件を4要素と解し、その有効性をそれぞれの要素の総合判断で行う傾向を示しています(ナショナル・ウエストミンスター銀行事件 東京地決平12.1.21)。4要件とすると、4要件すべてを満たさなければ解雇無効となるのに対し、4要素とすると、各要素の総合判断となり、ある要素が欠けても有効となる場合があるのです。
ただ、使用者の恣意的な解雇や矛盾した経営行動は、厳しいジャッジを受けています。
|