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労働実務Q&Aこれで解決!

兼業禁止

Q.

ここ数年、わが社では賃上げはなく、賞与も縮小ぎみ。そのためかどうか、会社に無断で、アフターファイブにスナックのホステスとして働いたり、土日に運送会社でアルバイトをする者がいます。当社の就業規則では、「会社の承認を得ないで他に就職」すると、懲戒解雇する旨の規定があります。この両名について、懲戒解雇することができますか。

A.

勤務終了後の時間は、従業員の私的時間であり、使用者の労働契約上の権限が及ばないのが原則です。ただし、会社での労務提供に支障を及ぼしたり、企業秩序に影響を及ぼす場合があることを考慮し、多くの会社で二重就職の許可制を設けています。このような規定も有効ですが、一切の兼業が違反となるのではなく、事案の実質を吟味して判断すべきでしょう。


◆兼業制限規定の合理性

  公務員は法律によって兼業が禁止されています(国公法103条、地公法38条)が、民間企業にはこのような規制はなく、制限するかどうかは、就業規則等の定めによります。
  最近では、労働時間短縮の進展や厳しい雇用状況下における労働者の生活防衛の必要性から、副業やアルバイトだけでなく、兼業そのものを認める企業もあるようです。
  そこで、就業規則で兼業を禁止し、あるいは許可にかからしめる規定の効力、つまり合理性があるのかどうかが問題となります。
  建設会社で事務員として勤務するかたわら、毎日午後6時から午前0時まで、キャバレーの会計係として就労した事案について、つぎのような下級審判決があります。
  「労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは、次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心をもたざるをえず、また兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく」、合理性を有するとしています(小川建設事件 東京地決昭57.11.19)。


◆懲戒解雇の正当性

  この判決は、「無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり」、会社に対する「雇用契約上の信頼関係を破壊する行為と評価されうる」としています。そして、「軽労働とはいえ毎日の勤務時間は6時間にわたりかつ深夜に及ぶものであって、単なる余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり」、当該兼業が会社への「労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高い」と判断して、解雇を有効としました。
  おたずねのスナックのホステスとして夜働く行為が仮に毎日の勤務だとすると、翌日の自社での勤務能率は低下するおそれがあります。風俗営業での兼業については、会社によっては企業イメージの観点から難色を示すでしょう。一般に事前の承認を得るのも困難と考えられます。したがって、懲戒解雇もやむなしといえる場合が多いと思います。
  裁判例は、兼業規制の規定の効力を認める一方で、これに制限を加え限定解釈をしています。勤務時間外の行動は本来的に自由だからです。したがって、形式的に兼業許可違反であっても、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務提供に格別の支障を生じせしめない程度のものは、違反とならないとしています。
  土日に運送会社でアルバイトをする行為についても、この実質を判断すべきで、一般に懲戒解雇とするのは処分が重すぎます。事前の承認申請があったとすれば、週1日は許可せざるを得ないでしょう。

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