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労働実務Q&Aこれで解決!

うつ病と労災

Q.

入社4年を経過した女性社員が、定期異動で配置転換となり、半年後体調不良を訴え、病院で受診したところ、「うつ病」と診断されました。上司の話では、原則として残業が禁止された職場で、定時勤務ではこなしきれない業務量がストレスになったのではないか、とのこと。このような心の病が仕事に由来するとして、労災認定ができるのでしょうか。

A.

平成17年度の精神障害等に対する労災請求件数は全国で656件あり、そのうち労災認定されたのは127件です。年々増加傾向にあるとはいえ、業務との因果関係の立証が困難なため、労災認定は容易ではありません。そこで、厚生労働省は、業務上外判定の基準となる「判断指針」を策定。これにより請求者の立証責任の負担が軽減され、手続も迅速化されました。


◆精神障害等と労災認定

  労働基準法は、業務上疾病の範囲を定めています(労基法施行規則別表第1の2)。精神障害等は、別表第1の2第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱われ、最新の医学的知見に基づいてその解釈を通達で補足しています。それが、厚生労働省が策定した「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平11.9.14基発第544号)です。この認定基準により請求者の立証責任の軽減と行政事務の迅速化・斉一行政の確保が図られることになりました。
  業務上外の判断にあたっては、次のプロセスを具体的に検討したうえで、総合的な判断が下されます。
  ①精神障害の発病の有無、発病時期および疾患名の確認
  ②業務による心理的負荷の強度の評価
  ③業務以外の心理的負荷の強度の評価
  ④個体側要因の評価
  まずは、業務上災害となる疾病の確定。判断指針は、従来の対象枠を拡大し、世界保健機構が提唱する国際疾病分類(ICD-10)の精神障害を補償対象としています。
  つぎに、業務起因性の判断。その判断には、判断指針別表1の「職場における心理的負荷評価表」に列挙された出来事と強度が1つの目安になります。この表は、出来事を7つに類型化し、具体的出来事31項目を抽出しています。これらの項目を、精神障害発病前のおよそ6ヵ月間にさかのぼって検討し、該当する項目の心理的負荷の強度を「Ⅰ」~「Ⅲ」の3段階で評価します。必要に応じて強度の修正を行い、出来事に伴う変化等も併せて検討したうえで、総合評価を行います。
  加えて、業務外の心理的負荷(別表2の「職場以外の心理的負荷評価表」を用いる)、4項目の個体側要因に特段の理由が認められず、別表1の評価が「強」であれば、業務上と判断されます。


◆業務上外の判断

  本件被災者の精神障害の契機と推測される6ヵ月前の「配置転換」は、判断指針の別表1によると、心理的負荷の強度は「Ⅱ」とされています。この出来事が精神障害を発病させたと判断されるためには、心理的負荷の強度が「Ⅲ」に修正されるべき特段の事情が必要です。つまり、「出来事に伴う変化等」が「特に過重」と評価されなければなりません。「特に過重」とは、同種の労働者と比較して業務内容が困難で、恒常的な長時間労働が認められ、かつ、過大な責任の発生、支援・協力の欠如等、特に困難な状況が認められる状態をいいます。
  今回の配置転換は定期異動であり、被災者にとって不合理なもので、特別の心理的負荷を生ずるものであったとはいえません。定時勤務ではこなしきれないという業務量がどの程度かは問題ですが、恒常的な長時間労働等の実態もありません。したがって、本件うつ病の業務起因性を認めるのは極めて困難といえます。

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