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労働実務Q&Aこれで解決!

社員教育

Q.

当社では、経済構造や市場の急激な変化に対応するため、社員教育を重視し、時間とコストをかけてきました。ただ、カリキュラムの内容がマンネリ化してきたとの指摘もあります。そこで最近では、心の鍛錬のために、自衛隊の体験入隊や禅寺で座禅を組ませる研修を企画、検討しています。研修の内容について、何らかの制約といったものがありますか。

A.

企業は、社員に対し、業務命令として社員研修や教育訓練を実施できます。その内容については、基本的には会社の裁量的判断にまかせられているものの、無制約ではありません。社員教育の目的に照らして不合理なものであってはならないのです。禅寺で座禅を組ませるのは、特定の宗教行事に参加させることになり、裁量の範囲を逸脱するものといえます。


◆社員教育の法的根拠

  社員教育の法的根拠は、会社と社員との間の労働契約にあります。労働契約とは、社員がその労働力を一定期間使用者の処分に委ね、使用者の指揮命令に従って労務を提供し、使用者はその対価として賃金を支払うことを約束する契約です。これが職場生活のベーシックな法律関係であり、「使用従属関係」といいます。使用者が社員教育を実施する権利は、労働契約から生ずる業務命令権から派生します。使用者は、提供される労働力を有効活用し、労働力の質的向上を図るため、社員に業務命令として研修への参加を義務づけることができるのです。
  また、就業規則に、「社員は、会社の行う研修を受けなければならない」旨の定めがあるときは、この規定も根拠になります。就業規則は、合理的な労働条件を定めているものであれば、その法的規範性が認められ、「当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を得たかどうかを問わず、当然にその適用を受ける」からです(最判昭43.12.25)。


◆社員教育の内容と限界

  社員教育の目的は、企業が期待する人材を育成することにあります。企業の存続・発展に寄与し、経営戦略の実現に資する人材を開発するための教育は、必然的に広範多岐にならざるを得ません。ですから、現在の業務遂行と直接関係のないものも含まれます。
  したがって、教育の内容は、原則として使用者の裁量的判断にまかされるものの、労働契約の内容、研修の目的などに照らして、不合理なものは除外されるべきでしょう。特定の宗教や思想信条教育は、法令に抵触するものです。私人間においては(会社と社員間)、民法90条の公序良俗規定などを媒介として、憲法の人権規定が間接的に適用されるというのが、判例の立場だからです。
自衛隊への体験入隊は、規律性や協調性の向上、精神力を養成するために行われており、特定の思想教育には該当しないでしょう。
  これに対し、禅寺での座禅の修行は、精神修養のためとはいえ、社員に、自己の信仰する宗教と異なる宗教行事に参加を強制する可能性があり、業務命令の範囲を逸脱しているといわざるを得ないのです。


◆社員教育と労働時間

  社員研修や教育訓練を社内で行うにしろ、社外で行うにしろ、使用者の明示または黙示の業務命令がある場合は、労働時間になります。判例も、労基法にいう労働時間とは、「労働者の行為が指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」としています(最判平12.3.9)。その時間が所定の就業時間を超えたり、法定休日になされたときは、割増賃金の支払いが必要になります。

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