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労働実務Q&Aこれで解決!

変更解約告知

Q.

長引く業績不振のため、事業の縮小、再構築に着手しました。まずは退職金割増による希望退職の募集を実施。残った人員のうち5人は特殊技能者で、職務と勤務場所を限定して採用した者。会社は彼らに対し、職務と勤務場所の変更、賃金の大幅減額を内容とする再雇用契約を申込み、これに承諾しないときは解雇する、という意思表示ができますか。

A.

職務や勤務場所が特約により限定されている場合は、会社は配転命令による変更はできません。契約法の原則からすると、労働条件の変更には相手方の同意が必要。ただし、お尋ねの通知は、「新契約締結の申込みを伴う従来の労働契約の解約」であり、変更解約告知と考えることもできます。この場合、解雇の一種なので、厳格な要件の具備が必要です。


◆労働条件の変更と3つの法形式

  労働者の労働条件や処遇を決定するために、労働法は3つの法形式を用意しています。
  もっとも基本となるのが、労使間で締結される労働契約。ただし、経済的な非対等性から労働者を保護するため、法は私的自治に制約を加え、労働条件の最低基準を法定しています(労基法1条2項、最賃法5条1項)。
  最低基準以上の労働条件については、外部から修正を加える集団的規制という法形式を採用。その1つが就業規則であり、いま1つが労働協約です。就業規則は、「基準に達しない労働条件を定める労働契約」を無効とし(労基法93条)、労働協約は「基準に違反する労働契約」を無効とする(労組法16条)など、強力な規範力を付与されています。
  3つの職場規範の優先順位は、労働協約、就業規則、労働契約、という順序になります。
  ところで、労働条件の変更が行われるときに、その内容が労働協約で規定されている場合は、労働協約の改定が必要であり、就業規則で規定されている場合は、就業規則の変更が必要になります。問題となるのは不利益変更。判例は、労働協約の不利益変更による規範的効力については、原則有効とするも、無制約ではありません。就業規則の不利益変更については、合理性理論が確立しており、その内容が合理的な場合に限定されています。
  事案は、労働協約でも就業規則でも規定されておらず、しかも特約があるケース。このようなとき、使用者からの一方的な労働条件変更の手段としての変更解約告知が、どこまで認められるかが議論されているのです。


◆変更解約告知の意義と要件

  変更解約告知はドイツに由来する理論で、労働条件変更のための、新たな労働条件の申込みを伴った従来の労働契約の解約の意思表示と解されています。いわば解雇を通じて労働条件を変更する方式であり、解雇のニューバージョンであることは間違いありません。ただし、通常の解雇が労働契約の終了のみを目的として行われるのに対し、変更解約告知は、労働条件の変更を目的として行われ、労働者が使用者からの変更の申込みを承諾すれば労働契約が存続するという点で区別されます。
  日本で初めて変更解約告知という概念を有効としたのが、スカンジナビア航空事件です。裁判所は、「労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができる」と要件を明示しました(東京地決平7.4.13)。
  いまだ定説というものはありませんが、労働者に自己決定を保障した新しいタイプの解雇であり、個別的労働条件変更の法理といえる、と考えます。

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