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労働実務Q&Aこれで解決!

過労自殺の企業責任

Q.

いわゆる過労自殺をめぐる裁判の報道が目立ちはじめました。なかでも、電通やオタフクソース、川崎製鉄の訴訟では、判決や和解による企業の賠償金額はいずれも1億円を超えているとか。損害賠償の金額が非常に大きく、中小企業では経営を揺るがすことにもなりまねません。ここまで厳しい企業責任を問われる過労自殺とはどのようなものですか。

A.

過労自殺という言葉は、過労死とともに俗称であり、法的、医学的な定義ではありません。あえていえば、過重な業務による心労が引き金になって自殺に追いこまれたもの、といっていいでしょう。業務と自殺との間になんらかの関連があれば過労自殺になるというわけではなく、その精神障害および自殺が業務上災害と認定されることが必要です。


◆企業の災害補償責任

  労災保険では、故意による災害には保険給付されません(労災保険法12条の2の2第1項)。過労自殺の労災認定では、これが事実上の高いハードルとなっていました。一般的に、自殺は故意による死亡といえるからです。かつて過労自殺の労災認定が、故意がなかったと認められる「心神喪失」状態での自殺に限定されてきたのもそのためです。
  しかし、労働省(当時)は、平成11年9月14日付けで、「心理的負荷による精神障害に係る業務上外の判断指針について」(基発544号)と「精神障害による自殺の取扱いについて」(基発545号)を通達し、行政解釈が一新しました。
  すなわち、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的抑止力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない」としたのです。つまり、業務による心理的負荷によって精神障害を発病した場合には、故意によるものではないと推定して、業務起因性を認めるというもの。
  最近の医学的所見によると、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神障害では、その病態として自殺念慮(生きていてもつまらない、死んだほうがよいという気持ち)が出現する蓋然性(確立)が高いことがわかってきたのです。
  業務上疾病としての精神障害といえるためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。①判断指針で対象とされる精神障害を発病していること。②対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。③業務以外の心理的負荷および個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。


◆企業の民事損害賠償責任

  労災給付の価額の限度を超える損害については、被災害労働者の遺族は、会社に対し民法上の損害賠償請求ができます。
  最高裁は、電通事件で、過労自殺の企業責任を初めて明確にしました(平12.3.24)。恒常的な長時間労働がうつ病を発症させ、そのため自殺にいたった事実について、相当因果関係があることを認めたのです。業務が他のリスクファクターと比較して相対的に有力な原因となっていると判断したのです。
  会社の安全配慮義務にも言及。「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」と判示しています。
  企業は、社員の心の健康にまで気を配らないと、万一のときのリスクは小さくないことを肝に銘ずるべきです。

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