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労働実務Q&Aこれで解決!

団体交渉応諾義務

Q.

売上げ不振による事業縮小のため、1年の雇用期間を定めた契約社員について、2度目の更新をせず、期間満了で雇止めとしました。その後、退職者は地域一般労組に相談に行き、労組に加入したもよう。組合からは、新たに組合員となった者の解雇撤回を求めて、団体交渉の申し入れがありました。このような団交要求にも応じなければいけませんか。

A.

労働組合からの団交要求に対し、使用者はいやでも拒否できないことになっています。本来、話し合いに応ずるかどうかは、当事者の自由意思に任されています。個人からの申し入れを拒否することは自由ですが、労働組合からの団交要求となると話は別。団体交渉は、憲法や法律で認められた組合の権利です。退職後の駆け込み加入であっても同じです。


◆団体交渉の法的意味

  労働組合という団体に付与された団体交渉権という強力な権利。この法的意味は次のようなものです。
  団体交渉権は、団結権、争議権とともに、憲法28条で保障された労働基本権(または労働三権といわれる)の1つです。
  団体交渉権とは、労働者が団結し、その代表者を通じて労働条件その他の労働者の待遇や労使関係のルールについて使用者と交渉する権利をいいます。労働組合の団結権を実効あらしめるために独自の権利として保障されたものです。
  どのような権利関係が生ずるかというと、国との関係で、正当な団体交渉に刑罰が科されることがありません。これを「刑事免責」といいます。使用者との関係においては、団体交渉は正当な権利の行使であって、不法行為などによる民事責任を追及されることがありません。これを「民事免責」といいます。
  労働組合法は、以上のような憲法の規定と解釈を受けて、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することを禁止し、その違反の救済手続として不当労働行為制度を定めているのです。


◆団交応諾義務のある使用者

  団体交渉拒否の不当労働行為となるのは、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むこと」(労組法7条2号)です。本件で論点となるのは、既に退職(もしくは解雇)しているのだから、「使用者」でもないし「雇用する労働者」ともいえないので、団交を拒否することができるのではないか、ということ。
  しかしここでいう団交応諾義務のある使用者は広く解されており、「被用者の労働関係上の権益に何らかの影響力を及ぼし得る地位にある一切の者」と捉える見解が有力です。したがって、退職が適法で雇用契約が終了している場合であっても、使用者として団交の申し入れに応じなければなりません。仮に労働者の主張が容認されたときには、引き続き従業員たる地位を保有することになるのですから。不当労働行為救済制度の目的が労働者の団結を擁護し、団体交渉を助成することにある以上、このような目的に適う解釈をすることは許されることです。
  退職後に合同労組に駆け込み加入した本件の場合でも、加入と交渉の申し入れが社会通念上合理的な期間内に行われている限りは同じように考えられます。
  また、解雇の撤回要求といった個別人事が、法的に応諾が義務づけられている団体交渉の対象事項となり得るのかという問題もあります。その実質は苦情処理です。
  団体交渉を補完する労使間の自主的手続である苦情処理手続によるべできではないかという議論も成り立つのです。しかし、わが国では苦情処理手続は普及していません。したがって、裁判所でも労働委員会でも、個別人事については、義務的団交事項となる、という解釈が確立されています。

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