HOME >これで解決!労働実務Q&A>解雇・退職>退職後の競業避止義務 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

退職後の競業避止義務

Q.

健康食品やサプリメント類を販売する会社を経営しています。このたび、やり手の営業マンが、幹部と意見が合わず、退職しました。しかも近隣地域で、同じような商品を販売する会社を設立。当社の顧客リストや、長年培ってきた営業ノウハウを利用して顧客獲得活動をされると、大変な痛手となります。何らかの法的対抗手段があれば教えてください。

A.

考えられるのは、損害賠償請求、競業行為の差止め請求、そして退職金の不支給・減額などです。ただし、退職した従業員には、職業選択の自由があります。したがって、競業規制を目的とした個別契約があらかじめ締結されているか、就業規則等が整備されていることが前提となります。また、特約が有効か、特約違反があるかどうかは、さらに吟味されます。


◆競業行為規制のタイプ

  本題に入る前に、契約にもとづく競業行為規制の3つのタイプを整理してみます。
  第1は、競業行為を行わないという不作為を義務づけるケース。不作為義務は、労働契約の附随義務から生ずる場合と、個別契約や就業規則から生ずる場合があります。義務違反の法的効果は、債務不履行の一般原則に従って、損害賠償ないし競業行為の差止め(履行請求)です。本件の主たる論点です。
  第2は、競業行為を行った労働者に対して何らかの不利益を課すケース。競業行為を行った場合に、退職金を不支給ないし減額するという措置をとる場合がこれにあたります。
  第3は、競業行為を理由として労働者に懲戒処分を課すケース。労働契約関係に基づく競業行為規制です。


◆競業避止特約の存在

  労働者は、在職中、すなわち労働契約の存続中は、労働契約の附随義務として競業避止義務を負います。労働契約の人的・継続的性格に由来するものといっていいでしょう。したがって、競業行為を行った場合、就業規則の「会社の利益に反する不都合な行為」などの禁止条項に該当し、懲戒処分を受けることがあります。
  しかし、労働者が退職後、同業他社を開業する場合になると事情が異なってきます。競業避止義務が存続するというのはいかにも困難です。念書、合意書あるいは就業規則の規定などの契約上の明確な根拠がなければ、債務不履行責任を問えないと考えます。なぜなら、附随義務としての競業避止義務は、主たる権利義務関係としての労働契約の終了とともに消滅すると解されるからです。労働契約終了後の労働者と使用者の法的関係においては、労働者の職業選択の自由(憲法22条)が尊重され、競争原理にさらされるのが原則なのです。


◆競業避止特約の有効性

  競業行為規制の有効性については、民法90条の公序良俗違反となるかどうかが判断されます。要は、合理性の有無です。
  この点に関しては、①競業行為を規制する使用者の正当な利益があること、②競業避止義務を課される労働者の地位、競業行為を禁止される期間・地域・対象が、前記使用者の利益との関係で合理的な範囲に限定されていること、③代償措置が講ぜられていること、等が有効要件と考えられています。
  法的効果の差止めについては、さらに限定を加え、使用者が営業上の利益を現に侵害され、または侵害される具体的なおそれがある場合にのみ認められるとした下級審判例があります(東京地決平7.10.16)。
  退職金の不支給・減額条項については、在職中と異なり懲戒解雇を伴っていません。退職金が功労報償的な性格があるとしても、退職後の競業行為によって無価値、あるいは価値が減少すると考えるのは、無理があるような気がします。

ページトップ