労働時間の概念
Q. 当社の就業規則は、午前8時始業、午後5時終業、12時から1時までが休憩時間となっています。ただし、始業前に会社および周辺の掃除を10分、朝礼・ミーティングを10分することが慣行となっています。掃除の時間は自由参加とされていますが、朝礼・ミーティングに遅れると上司の注意を受けます。始業前のこの時間も労働時間になりますか。 |
A. 労基法には、労働時間についての定義規定がありません。ただ、ここで問われているのは、使用者が現実に「労働させ」る実労働時間です。これは、労・使の意思や約定によって左右されるものではなく、客観的に決まります。一般的には、労働者が使用者の明示または黙示の指示により使用者の指揮命令下に置かれた時間をいう、と解釈されています。 |
◆労働時間とは
各種の労働時間の整理をしましょう。
まず、法定労働時間。これは、1週および1日の最長労働時間のこと。労基法は、1週の労働時間の上限を40時間、1日の労働時間の上限を8時間と定めています(32条)。この時間を超える労働は「時間外労働」となり、36協定等の特別の要件設定(36条)や、割増賃金の支払い義務が発生します(37条)。これらの要件を満たさずに時間外労働をさせると、使用者は罰則を科されることになります(119条1号)。
法定労働時間と対比されるのが、所定労働時間。使用者は、始業・終業時刻および休憩時間について、就業規則に規定を設けなければならず(89条1号)、これによって定められた各企業の労働時間を所定労働時間といいます。この所定労働時間は、当然、法定労働時間の枠内に抑えられなければなりません。
労基法が規制する労働時間は、使用者が現実に「労働させ」る時間であり、これを実労働時間といいます。労働者が1日の労働を開始して終了するまでの時間を拘束時間といいますが、実労働時間は、この拘束時間から休憩時間を除いた時間です。実労働時間には、具体的な業務に従事している時間(実作業時間)だけでなく、業務が発生したら直ちに対応できるように待機している時間(手待時間)も含まれます。
実労働時間は、通常、「労働者が使用者の明示または黙示の指示により使用者の指揮命令下に置かれた時間」と定義されています。使用者の指揮命令下にあったかどうかの判断は労働契約や就業規則の定めのいかんにかかわらず、客観的に定まります。所定労働時間は労使間で定められた時間にすぎませんので、客観的に定まる実労働時間と食い違いを生ずることがあります。
指揮命令下性の判断基準として、判例は、「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされたとき」を挙げています(最判平12.3.9 三菱重工長崎造船所事件)。
◆掃除・朝礼・ミーティング
そこで、始業前の掃除、朝礼、ミーティングの時間をどう考えるか。就業規則上の制裁を背景に出席が強制される場合はもちろん、欠席した場合に人事評価等で何らかの不利益を被るものであれば、その時間はすべて労働時間となります。一方、そのような強制の要素がなく、まったくの自由参加ということであれば労働時間にはなりません。
したがって、始業前20分からの掃除は、労働時間にカウントされませんが、後半の10分間の朝礼・ミーティングは労働時間ということになります。この10分間については、法定労働時間の8時間をはみだしており、割増賃金の支払い義務が生じます。始業時刻や終業時刻を再考して、就業規則を変更されることをおすすめします。
|