HOME >これで解決!労働実務Q&A>パート・派遣・女性>派遣労働者と労働災害 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

派遣労働者と労働災害

Q.

このたび、人材派遣業界に新規参入しました。派遣社員は、派遣元と雇用契約を結んでいるものの、実際の指揮命令は派遣先から受けます。先日、自動車部品製造会社に派遣していた当社登録社員が、派遣先で業務上災害を引き起こし、負傷しました。このような場合、派遣社員に対する派遣元の責任と、派遣先の責任は、どのように考えたらいいのでしょうか。

A.

労働者派遣は「雇用」と「使用」が分離した就労形態。労災事故が発生した場合も、これとパラレルに「補償」と「賠償」が分離します。つまり、労災補償責任は派遣元が負いますが、民事上の安全配慮義務違反ないし不法行為による損害賠償責任は派遣先が負うことになります。ただし、被災者が同一損害について二重補償されることはありません。


◆労災補償責任は派遣元

  労働者派遣は、3者間の法律関係で構成されます。すなわち、①派遣元と派遣先の間には、労働者派遣契約関係、②派遣元と派遣労働者の間には、雇用契約関係、③派遣先と派遣労働者の間には、指揮命令関係がそれぞれ成立します。
  これに伴い、労基法等の適用区分が振り分けられることになるのです。このことについて労働者派遣法は、原則的には雇用契約を締結している派遣元に責任を負わせつつ、その実態に鑑み、派遣労働者保護の実効を期するため、派遣先に負わせることが適切な事項について特例規定を設けるという方法で、これに対処しています。
  労働者派遣法は、労基法の災害補償(75条~88条)についても、労災保険法の適用についても、特例措置を定めていません。ですから、原則にかえり、災害補償責任は、派遣元事業主が負うことになるのです。災害補償は、労働者の賃金の喪失による逸失利益の補填を目的としており、賃金支払義務のある派遣元が負うのは妥当な解決といえます。


◆安全配慮義務は派遣先

  労働災害が発生した場合、被災者は使用者に対し、債務不履行責任としての「安全配慮義務違反」または不法行為責任により、損害賠償請求することが可能です。
  使用者の安全配慮義務は、判例法で確立しており、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき義務」と定義されています(最判昭59.4.10)。
  労働者派遣法は、この点について特例を設け、安全管理責任を専ら派遣先に負わせています(45条)。したがって、派遣労働者は派遣先に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を追及することができるのです。派遣労働者が現に就労するのは派遣先であり、指揮命令関係という「特別な社会的接触の関係」に入っている派遣先に負わせるのが、信義則に適うと判断しているのです。


◆死傷病報告の提出は双方

  従来は、指揮命令権限をもつ派遣先が、労働者死傷病報告を提出すべき事業者とされてきました。
  平成15年の労働者派遣法の改正で、物の製造業務への労働者派遣が可能となったことにより、労働安全衛生の強化を図る措置がとられています。すなわち、派遣先および派遣元の事業者は、派遣先の事業場の名称等を記入のうえ、それぞれ所轄の労働基準監督署に、労働者死傷病報告を提出することになったのです(安衛則97条1項)。派遣先の事業者は、労働者死傷病報告を提出したときは、その写しを派遣元事業者に送付しなければなりません(派遣則42条)。

ページトップ