時間外労働の限度基準と特別条項
Q. 当社は、食品製造業を営んでおり、従業員約30名を雇用しています。通常は時間外労働の限度基準の枠内で操業可能です。しかし時折、予測を大幅に上回る注文があり、納期も短く、人員も急に増やせないため、限度基準を超えた時間外労働をさせざるを得ません。このような場合に、うまく対処する方法があれば、ご教示下さい。 |
A. 36協定の限度基準は、恒常的な長時間労働を改善するために定められたもの。しかし、業種、業態によっては、予想外の事態もあり得ます。そこで、このような場合に備え、あらかじめ、特別条項付き協定を締結しておけば、限度時間を超える時間を延長することができます。これは、臨時的なものに限られ、一定の要件を満たしていることが必要です。 |
◆限度基準の趣旨と内容
労基法は、1日および1週の労働時間、休日日数を定めていますが、その36条で、労使協定(いわゆる「36協定」)を締結し、労働基準監督署長に届け出ることを要件として、時間外労働や休日労働を認めています。
ただし、延長時間を無制限に定めてよいわけではありません。労働福祉や労働安全衛生の観点からは、必要最低限の範囲にとどめるべきであり、恒常的な長時間労働は決して好ましいものではないからです。
厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、労働時間の延長の限度等について基準(限度基準)を定めることができるとされています(36条2項~4項)。かつての指針(行政指導)による目安時間が撤廃され、平成10年の法改正(平成11年4月1日施行)により、法文上の根拠規定が設けられたのです。
限度基準の内容は、平成10年労働省告示第154号に定められています。これによると、労使が36協定で延長時間を定めるにあたっては、少なくとも、①1日あたりの延長時間、②1ヵ月など1日を超え3ヵ月以内の期間の延長時間、③1年間の延長時間、について必ず定めなければなりなせん。
一定期間の限度基準は、1週間で15時間、1ヵ月で45時間、1年で360時間等とされています。したがって、たとえ労使が合意したとしても、これらの時間を超えて36協定を締結することはできないのです。
◆特別条項付き労使協定
限度基準には、予想外の事態が生じる場合の弾力措置として、例外規定があります。すなわち、「あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長時間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を定める場合は、この限りではない」としています。
つまり、36協定で、原則的な規定のほかに、①「特別の事情」(予想外の繁忙等臨時的なものに限る)、②労使間の「手続」(たとえば「協議」、「通告」など)、③限度時間を超える一定の「時間」、のそれぞれの内容をあらかじめ協定し、労基署長に届け出ることにより、例外が認められています。
文例としては、「一定期間についての延長時間は、1ヵ月45時間、1年360時間とする。ただし、納期が集中し生産が間に合わないときは、労使の協議を経て、1ヵ月60時間、1年450時間までこれを延長することができる」等の協定が考えられます。
「特別の事情」は「臨時的なもの」に限られます。特別条項付き協定の適用回数は、1年の半分を超えないものとされており、恒常的な長時間労働を招くおそれのあるものは、助言、指導の対象となるので注意が必要です。
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