能力・成果重視の賃金制度
Q. 賃金制度は、能力主義から成果主義へとシフトしている、ということを聞いたことがあります。能力主義と成果主義の違いは何ですか。成果主義については、新聞・雑誌等で色々な意味で使われています。報酬をインセンティブにして人間の行動を引き出す制度であり、科学的根拠のない迷信にすぎない、という見解もありました。どう考えますか。 |
A. 賃金制度の機軸を、「働く人の保有能力の高さ」に置くか、「職務価値の高さと達成度」におくかの違いです。確かに、成果主義については、言う人により内容が異なるので、注意が必要です。成果主義のねらいは、賃金によって動機づけるというより、仕事を中心にした評価で公平な人事の仕組みを整え、働く人の内発的動機を促すことにあると考えます。 |
◆能力主義と成果主義の違い
基本給の構成要素を賃金体系といい、3つの類型に分けることができます。
第1は、「能力」に着目した職能給。属人的要素である保有能力を基準にして各人の賃金を決めます。能力とは職務遂行能力のこと。職務遂行能力を等級化して格付けしたものが職能資格制度。能力主義の旗印の下で、70年代以降、大企業を中心に導入されました。
第2は、仕事そのものである「職務」に焦点を合わせた職務給。職務のもつ相対的価値、つまり職務価値に基づいて賃金を決定します。職務の価値を決めることを職務評価といい、その基礎作業として職務分析があります。職務を序列化したものが職務等級です。
第3は、仕事の「能率・業績・成果」に応じて賃金を決定する成果給。従来、出来高給、歩合給、業績給などと呼ばれてきました。職能給が能力というインプット要素で賃金を決めるのに対し、能力が発揮された結果としてのアウトプットで賃金を決めます。
多くの企業が導入している成果主義賃金は、概ね第2の職務給と第3の成果給を併せたもの。すなわち、賃金体系において職務給を取り入れ、賃金の成果対応部分を拡大する方法で賃金制度改革に取り組んでいます(正確には「職務・成果主義」)。つまり、職務や役割の大きさをあらかじめ定め、その達成度に応じて賃金を決める仕組みの構築です。
◆成果主義賃金制度の背景・特徴・課題
成果主義が受け入れられている理由は、総額人件費削減の要請から。能力主義は、能力が経験とともに高まることから年功的運用に陥りやすく、能力と仕事のミスマッチによるコスト高を回避できないのです。
この点成果主義は、「企業活動への貢献度」に応じた処遇により働く人の公平性を確保でき、経営戦略に沿った個人のパフォーマンスを奨励するという利点があります。
成果主義の特徴その1は、職務給の採用。職務グレード制の枠組みをベースとするのが最適です。職務グレード制度とは、職務の大きさや難易度を目安に3~4の職群(バンド)に階層化し、さらに職務価値(ジョブサイズ)に応じてグレードに区分した処遇制度。
特徴その2は、成果対応部分の拡大。成果配分の性格をもつ賞与は、業績・成果を大きく反映させ、人事評価の業績・能力・意欲態度の3つ評価項目のうち、上位グレードに行くほど、業績のウェイトを高めます。
以上とは裏腹に、成果主義にも課題があります。1つは成果主義を強めることによる結果主義、ノルマ至上主義の弊害。人事評価は、業績だけでなく、能力・意欲態度のバランスが肝心です。とりわけ若年層では、長期的な人材育成の観点から能力主義を維持します。
もう1つは、成果の測定が困難なこと。人事評価は、外形上の成果をみるだけでなく、コンピテンシーによるプロセス評価を加味したり、目標管理による業績評価を補完するなど、評価精度を高める努力が必要です。
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