パワーハラスメント
Q. 取締役兼営業本部長を仰せつかり、一糸乱れず戦う軍団づくりに策を練っています。私たちの若い頃は、先輩社員に怒鳴られ、叱り飛ばされながら仕事を覚えたものでした。しかし今時の若い連中は、本人の成長を願って厳しく注意をすると、パワハラではないかと反感をいだく者もいます。キレやすい上司、または軟弱な部下が増えたのか、苦慮しています。 |
A. 個人の資質や性格の問題ではなく、競争の激化や雇用環境の変化が背景にあるようです。とりわけパソコン、インターネット、携帯電話の普及や雇用の流動化等の外部要因により、コミュニケーション不全や個人のストレスがまん延。職場にゆとりや寛容さが欠け、相対的な弱者に攻撃(病んだエネルギー)のほこ先が向けられているのではないでしょうか。 |
◆パワーハラスメントとは
パワーハラスメント、略してパワハラとは、職権を使ったいじめや嫌がらせをいいます。様々なケースやパターンがあります。
パワハラは、社員の人権侵害の問題であるばかりでなく、職場の風土を悪くし、社員の士気の低下や会社のイメージダウンにもつながるため、企業も関心を寄せています。
ただ、セクシュアル・ハラスメントと違いパワハラの法的定義がなく、相手によって受け止め方が異なる等、基準があいまいです。
しかし、パワハラは一部の人の特殊なトラブルや逸脱でなく、一定の権限や地位につけば誰でも起こる可能性があり、企業にとって人事労務管理上の大きな課題であることは間違いありません。
◆パワハラの法的責任
では、パワハラが行われたときの法的責任はどうなるのでしょうか。
まず加害者本人の刑事責任。職場におけるいじめや嫌がらせは、個人の身体や名誉、プライバシー等の人格権の侵害であり、著しく社会通念を逸脱している場合は、暴行、傷害、脅迫、名誉毀損、侮辱罪等の刑罰に処せられます。
つぎに民事責任。いじめられた社員は、加害者である上司に対し、不法行為(民法709条)にもとづく損害賠償請求が可能です。慰謝料請求が主となりますが、いじめの結果として退職に追いこまれた場合には、休業による賃金の逸失利益の請求もできます。いじめの程度が悪質であるときは、侵害行為の差し止めを請求することも認められています。
会社の関与がある場合には、不法行為としての使用者責任(民法715条)もしくは契約違反としての債務不履行責任(民法415条)を会社に追及できます。後者は、「職場環境整備(配慮)義務」違反による損害賠償請求であり、「安全配慮義務」に類似した考え方です。
民法上の救済を補うのが定型化された労災補償。うつ病などの精神疾患による労災申請や労災認定も急増しているようです。
そして企業の懲戒処分。上司の言動が会社の服務規程に違反していれば、権限濫用行為または職場秩序遵守義務違反として懲戒処分の対象となります。
◆リスクマネジメントの実践
職場のいじめは、良好な職場環境を侵害する行為であり、使用者は、いじめを防止すべき義務を負っています。パワハラは、セクハラや過労死などど同じく人事労務リスクの類型に属しており、リスクを未前に回避し、マネジメントするのが賢明です。
事前にすべきことは、防止方針を明確にし、労働協約や就業規則等の防止規定を整備すること。社内の相談窓口設置も含まれます。
事後的措置としては、被害者、加害者の適正・迅速な調査の実施と事実関係の把握。配置転換、自宅待機、懲戒処分の検討等の速やかな是正措置をとることが肝心です。
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