HOME >これで解決!労働実務Q&A>賃金・賞与・退職金>年俸制と割増賃金 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

年俸制と割増賃金

Q.

当社では、役員および課長クラス以上の管理職は、すでに年俸制に移行しています。このたび一般職についても、裁量度の高いホワイトカラーを対象に、年俸制の導入を検討中です。従前の基本給とすべての手当を含めて賃金の1年分を一括して提示する方法を考えています。この年俸の中に残業代としての割増賃金を含めることができるでしょうか。

A.

年俸制にあらかじめ一定時間数の残業代を含めることは可能です。ただし、これを適法に行うためには、通常の労働時間に対応する賃金部分と割増賃金相当部分が明確に判別できるようになっていなければなりません。年俸制になったからといって残業代の支払いが免除されるわけではないのです。残業代を明確にしないと、「賃金不払残業」となります。


◆年俸制の特徴と賃金法制

  年俸制は、賃金額を年単位の総額で設定するとともに、その額が主として成果・業績を評価して決定される、という特徴をもっています。時給制、日給制、月給制と同じく、年俸制という賃金決定方式をとるかどうかは、基本的に当事者の自由に委ねられています。
  年俸制は、プロ野球選手のように、1年の仕事の評価により翌年度の賃金額を決める制度ですから、労働時間の量や割増賃金を問題とする必要のない管理監督者(労基法41条)や裁量労働制の適用者(同38条の3、38条の4)に適した賃金制度です。
  ただし、制度設計にあたっては、支払方法の規制に注意しなければなりません。すなわち、毎月1回以上一定期日払いの原則(労基法24条2項)が適用されるため、年俸を少なくとも12回に分割して支払うことが必要です。


◆年俸制適用労働者と割増賃金

  管理監督者、裁量労働制の適用者以外の一般労働者については、時間外・休日労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の支払いについて定めた労基法37条が正面から適用されるからです。
  年間の割増賃金額をあらかじめ年俸のなかに含めて支払う定額払いもできます。ただし、年俸額のなかの割増賃金部分を明確に区分するとともに、実際の時間外労働の割増賃金額を上回っていることが条件です。割増賃金部分が法定の額を上回っているか否かが後から検証できない支払方法は、37条の趣旨に反し、無効といわざるを得ません。
  行政解釈でも、「一般的には、年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は労働基準法37条に違反しないと解される」としています(平12.3.8基収78号)。


◆割増賃金・平均賃金の算定基礎

  割増賃金の算定基礎となる「通常の労働時間又は労働日の賃金」(労基法37条1項)からは、「臨時に支払われた賃金」や「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」が除外されています(同条4項、労基則21条4号、5号)。年俸額の一定部分として支払われている賞与はどうなるか。たとえば、年俸の17分の5に当たる部分を二分して、6月と12月に賞与として支払った場合、割増賃金の算定基礎から除外できるでしょうか。
  行政解釈は、支給額があらかじめ確定している賞与は、「臨時に支払われた賃金」にも「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」にも該当しないものであり、割増賃金の算定基礎から除外できないと解釈しています(平12.3.8基収78号)。「平均賃金」(労基法12条)についても同様で、賞与の支払い方法に工夫がいります。

ページトップ