休業手当
Q. 当社は、金属部品の製造を手掛けている、下請専門企業です。このところの急速な景気悪化により、元請会社が生産および雇用調整の動きを強めており、当社でも減産で対応せざるを得ません。企業が不況対策としてやむをえず操業短縮し、従業員を一定期間休業させる場合においても、従業員に対し何らかの形で賃金保障をしなくてはいけないのですか。 |
A. 労基法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定めています。操業短縮に伴う人件費削減策としての休業は、使用者に課せられた経営上の責任と解されます。したがって、労基法の休業手当の支払いが必要です。 |
◆民法536条2項と労基法26条
会社側の責任で休業した場合、労基法26条の休業手当の支払いを免れることはできません。これと似通った規定が民法にあります。民法では、債権者(使用者)の「責めに帰すべき事由」による債務(労働義務)の履行不能の場合には、債務者(労働者)は反対給付請求権(賃金請求権)を有するとされています(536条2項)。
労基法26条では平均賃金の6割までという上限を設けているのに対して、民法にはこの限定がありません。労働者を保護するための労基法の方が労働者の保護に薄いように見えます。そこで、労基法26条は、民法の規定と矛盾するのではないか、というのがここで問題となるのです。
しかし、民法は任意規定であり、当事者の合意によりその適用を排除することができます。一方、労基法26条の休業手当は、罰則をもってその支払いを義務づけられている強行規定であり、当事者の特約によって排除することができません。つまり、休業手当は、労働者の最低生活を保障するために、民法により保障された賃金請求権のうち、平均賃金の6割に当る部分の支払いを罰則つきで確保しているのです。決して矛盾しているわけではないのです。
◆法律の「守備範囲」の相違
さらに、労基法26条と民法536条2項では守備範囲が異なります。「責めに帰すべき事由」の解釈が違うのです。民法では契約一般に適用される責任のことであり、通常、「故意、過失または信義則上、これと同視すべき事由である」といわれています。「信義則上、これと同視すべき事由」とはどういうことかというと、「履行補助者(たとえば使用人)の故意・過失」を含むということです。
これに対し、労基法26条の「責めに帰すべき事由」は、もう少し広く解釈されています。つまり、民法上は使用者の責任とはいえないときでも、労基法26条では使用者の責任といえる場合が多々あるということです。たとえば、民法上は使用者の帰責事由とはならない、いわゆる「経営障害」も含むとされています。労基法は、労働契約の特殊性にかんがみ労働者を保護するのが建前ですから、使用者に対しては、一般の債権関係の当事者の責任より広い範囲で経営上の責任を問うのが公平だと考えられるからです。
この点に関しては、「親会社の経営難から下請工場が資材資金を獲得できず休業した場合」について、休業手当の支払義務があり(昭23.6.1基収第1998号)、「天災地変等不可抗力によって休業した場合」には、支払義務はない(昭23.7.20基収第2483号)とする行政解釈があります。
使用者が労基法26条に違反して休業手当を支払わないと、30万円の罰金に処せられます(120条1号)。悪質な違反をした使用者には、裁判所の裁量で、払うべき金額と同一額の付加金の支払いも命ずることができます(114条)。
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