裁判員の選任と休暇付与
Q. 少数精鋭のギリギリの従業員数で会社を経営しています。今年より、国民から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加する裁判員制度が実施される、と聞きました。従業員が裁判員に選任された場合、会社は裁判員を務めるために必要な休暇を与える義務がありますか。 また、従業員が裁判員としての職務を行う時間は有給にしなければいけないのでしょうか。 |
A. 裁判員制度は、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)に基づき、平成21年5月21日からスタートします。従業員が裁判員に選任され、裁判員を務めることは、労基法でいう「公の職務」にあたり、その職務を執行するに必要な休暇を付与しなければなりません。ただ法律は、有給であることを求めておらず、会社の判断に委ねています。 |
◆裁判員制度とは
裁判員制度は、国民の中から選ばれた6人の裁判員が刑事裁判に参加し、3人の裁判官とともに、被告人が有罪かどうかを判断し、有罪とすれば、どのような刑にするのかを決める制度です。国民が刑事裁判に関与することにより、裁判の内容や手続に国民の良識が反映され、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」(裁判員法1条)ことが期待されています。
裁判員裁判を行う裁判所は、全国50ヵ所の地方裁判所と10ヵ所の地方裁判所支部の計60ヵ所となっています。
この制度の対象となるのは、国民の関心の高い一定の重大な犯罪に関する第一審(地方裁判所)の刑事訴訟事件。たとえば、殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪、傷害致死罪、保護責任者遺棄致死罪などに関する裁判です。
裁判員は、20歳以上の有権者(衆議院議員選挙人名簿に登録された人)の中から、くじにより無作為に選ばれます。
多くの国民の参加により、その社会常識や感覚を司法手続に反映させるというのが、裁判員制度の趣旨。したがって、裁判員の職務は、原則として辞退することはできません。ただし、国民の負担が過大なものになることを避けるため、法律や政令で、辞退を申し立てることができる一定の事由を定めています。
◆公民権行使の保障
労基法は、「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない」(7条本文)と規定しています。
これは、労働者の選挙権その他の公民としての権利の行使や公の職務執行を保障するために、法が必要な範囲において労働義務の免除を使用者に命じ、労働時間中であっても労働者が主権者たる国民としての権利行使ができることを保障したものです。
ここで「公の職務」とは、各種議会の議員、労働委員会の委員、検察審査員などの職務のほか、裁判員としての職務や労働審判員の職務もこれに該当します。
ですから、従業員が裁判員に選任された場合、会社は、その職務を執行するに必要な休暇を付与しなければなりません。これに違反すると、使用者は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1号)。また、裁判員を務めるために仕事を休んだことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることも法律で禁止されています(裁判員法100条)。
公民権行使の時間を有給にすることまでは、法は要求しておりません。休暇の承認を与えることでいいのです。あるいは、本来の賃金と裁判所から受領した日当との差額を支給する、という選択肢もあります。最高裁は、「特別な有給休暇制度の導入」を企業に期待しているようです。
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