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労働実務Q&Aこれで解決!

退職勧奨

Q.

この不況下における雇用調整策として、残業規制、新規採用の中止、契約社員やパートタイマーの雇止めなどをやむなく実施してきました。これからは、希望退職募集のあと、中高年齢層に対し、退職勧奨を行う予定です。退職勧奨に応じない者には、解雇の可能性もある旨を告げるつもりです。退職の強要として違法になるようなことはありませんか。

A.

退職勧奨は、いわゆる「肩たたき」であり、使用者が従業員に対し、退職してもらえないか、と提案することです。提案を受け入れるか、拒否するかは従業員の自由。自主退職しなければ解雇すると告げるだけでは、一般に違法とはならないでしょう。説得のための手段、方法が社会的相当性を逸脱した場合に、退職強要として違法になることがあります。


◆退職勧奨の法的性質

 「解雇は最後の手段」であり、できるだけこれを避け、穏やかに雇用関係の解消をはかりたい、と考えている経営者は少なくありません。人件費の抑制や雇用の削減は、企業の存続と雇用責任を負う経営者としての、苦渋の決断にほかならないからです。
 そこでとられる手段が、合意ないし一方的解約による退職を勧奨する行為です。退職勧奨は、法的には労使の合意により労働契約を終了させる合意解約の申し込み、もしくは労働者に合意解約の申し込みをさせることの誘引と解することができます。したがって、被勧奨者は何らの強制や拘束を受けることなく自由に意思決定しうるのであり、退職勧奨に応ずる義務は一切ありません。この点で、使用者の一方的意思にもとづき労働契約を終了させる解雇と異なります。
 ですから、退職勧奨自体について、解雇のような法的制限を受けることはないのです。つまり、退職勧奨はもちろん、その後の合意解約や辞職の意思表示は、解雇とは異なるので、法律上の解雇規制(労働基準法19条、20条)や解雇権濫用規定(労働契約法16条)の制約を受けることはありません。また、退職勧奨は解雇ではないので、たとえ人員整理の目的で行われる場合であっても、判例が要求している整理解雇の四要件ないし要素を備える必要もないのです。


◆退職勧奨行為の限界

 勧奨によってなされた解約の意思表示が使用者側の強迫によるものであれば、労働者はこれを取消すことができます(民法96条1項)。労使間で成立した合意解約も当然効力を失うことになります。
  本事案のごとく、退職勧奨し、もし退職しなければ解雇もあり得ると告げるだけでは、「強迫」にはならないと考えます。強迫とは害悪を告知して、畏怖を生ぜしめることであり、同時に強迫行為が違法であることを要するからです。企業の経営上の理由から人員整理もやむを得ないと考えられる状況下で退職勧奨が行われ、使用者が従業員の自由な意思を尊重した説得を行い、従業員がそれを理解して自ら退職するかぎり、違法視することはできないのです。
  ただし、社会通念上許される限度を超えた手段、方法による退職勧奨は、退職強要として違法になります。たとえば、労働者が退職を拒否しているにもかかわらず、多数回、長期にわたり、数人で取り囲んで勧奨するなど、労働者の自由な意思決定を妨げるような場合は、不法行為として損害賠償の対象となります(下関商業高校事件 最判昭55.7.10)。
 なお雇用保険の失業給付では、「自己都合退職」と「会社都合退職」では、支給制限の有無と支給日数の点で後者の方が手厚くなっています。勧奨による退職は解雇とは異なりますが、雇用保険法上では、「会社都合」による退職とみなされています。

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