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労働実務Q&Aこれで解決!

労働契約法と就業規則

Q.

昨年(2008年3月1日)施行された労働契約法は、本体の条文数がわずか19条と小ぶりな法律ですね。内容的な特徴としては、就業規則に関する規定(7条、9条~13条)が詳細で、突出しているという感じです。使用者が一方的に制定する就業規則と、労使の対等な合意を重視する契約原理との関係は、どのように理解すればいいのでしょうか。

A.

職場における労働条件や服務規律を定めているのが就業規則。企業においては、多くの労働者が組織の中で継続的に働いていますから、どうしても就業規則という形で、集団的かつ統一的に設定される必要があります。労働契約法は、わが国で確立している判例法理を踏まえたうえで、就業規則の労働契約に対する効力を整理し、立法化したものです。


◆就業規則の最低基準効

 まずは、労働条件の最低基準を画する効力。就業規則には労基法制定以来、就業規則を下回る労働契約部分を無効とし、その部分を就業規則の労働条件で規律するという効力が定められてきました。これを最低基準効といいます。労働契約法12条は、従来の労基法93条をそのまま移行したもの。労基法13条の構造とよく似ています。就業規則は、いわば職場の労基法のような、労働者を保護する機能をもっているのです。


◆労働契約成立時の就業規則の効力

 つぎに、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合」すなわち、労働者を採用する場合の就業規則の効力。労働契約法7条は、労働契約を締結する際に、就業規則が「労働者に周知」されていて、「合理的な労働条件」が定められていれば、特にこれと異なる労働条件を合意しない限り、就業規則に記載された労働条件が契約の内容になるとしています。
 この点については、使用者が一方的に制定する就業規則が当事者を法的に拘束するのはなぜかをめぐって、就業規則の法的性質論争が展開されてきました。有名な秋北バス事件大法廷判決では、就業規則はその内容が合理的なものである限り、使用者と労働者との間には、労働条件はその就業規則によるという「事実たる慣習」が成立しているものとして、法的規範になるといっています(最判昭43・12・25)。
 労働契約法7条は、就業規則の法的性質論に介入することなく、判例法理をそのまま立法化したものです。


◆就業規則による労働条件変更

 さらには、使用者が就業規則を変更することにより労働条件の内容を変更することができるかという問題。
 秋北バス大法廷判決は、使用者による一方的不利益変更は原則として許されないが、「労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質」上、変更に合理性が認められる場合には、反対の労働者も拘束するとしました。
 労働契約法10条は、「変更後の就業規則を労働者に周知させ」、就業規則の変更が「合理的なもの」であるときは、労働者は変更後の就業規則に従わねばならないとしています。判例法理を法律上の規定に明文化したのです。
 この規定には、就業規則の変更が合理的なものかどうかについての判断要素が、簡潔に示されています。第四銀行判決(最判平9・2・28)で明らかにされたルールの採用です。すなわち、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情、の5点が掲げられています。
 いずれにしても、企業としては、労働条件の変更も就業規則の変更でよいという法的根拠が与えられ、その意義は大きいと思います。

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