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労働実務Q&Aこれで解決!

能力不足を理由とする解雇

Q.

当社では、昨年、市場志向を強化するため、マーケティング部を新設。ヘッドハンティングの会社から、大企業の営業課長経験者を紹介され、マーケティング部長として高給で中途採用しました。ところが、会社が期待していた職務が履行された形跡はなく、数値目標も5割程度の未達状態。部長としての能力がないとして、解雇することができますか。

A.

御社の就業規則には、「雇用を継続し得ないやむを得ない事情のあるとき」は、普通解雇できる旨の規定があります。いわゆる即戦力として職務上の地位を特定して採用された場合や、賃金等で、優遇されている場合は、その職務を遂行する具体的能力が労働契約の内容になっています。このようなケースでは、比較的容易に解雇が認められるでしょう。


◆就業規則の解雇事由と解雇権濫用法理

 まず、労働者の能力不足を理由とする解雇が、就業規則の解雇事由に該当するかどうかが問題となります。労基法は、「解雇の事由」を就業規則の絶対的必要記載事項として、あらかじめ明示することを求めているからです。この会社の就業規則には、いくつかの解雇事由が列挙してあり、最後に「その他、雇用を継続し得ないやむを得ない事由のあるとき」という包括的条項があります。これには該当するといわざるを得ないでしょう。
 このような条項に基づく解雇についても、当然、「合理性」と「相当性」という解雇権濫用法理(労働契約法16条)により、その有効性が判断されます。要は、その能力不足が債務不履行といえるかどうか、契約を継続することが企業経営にとって耐えがたいといえるかどうかに帰着します。
 一般的に判例は、能力不足を理由とする解雇が有効になるには、能力不足が著しいことが必要であり、いきなり解雇するのではなく、教育訓練や能力に見合った配置転換などの解雇回避措置の配慮義務を負う、としています。わが国の長期継続雇用の慣行のもとでは、企業内で社員教育と人事異動を介して人材育成を図ることが一般的であったことの反映といえます。ただし、定期的に人事異動を繰り返し、配転の受け皿がある大企業と、そうでない小規模の企業とでは、使用者側の配慮義務の程度は異なってきます。また、合意により降格するとか、合理的な賃金制度を導入することにより賃金処遇で対応可能かどうかも、模索されるべきです。


◆即戦力として厚遇で採用された場合

 本件では、一般の従業員と異なり、「マーケティング部長」として職務上の地位が特定され、その職務にふさわしい能力と適格性があることが労働契約の内容になっています。高額の賃金処遇も受けています。ですから、会社は、マーケティング次長に降格したり、他の部署に配転して雇用を保障する必要もありません。この労働契約は、対等な当事者を前提にした民法の契約概念に近く、提示された成果目標の未達は、能力不足による債務不履行の状態として理解することができます。
 判例も、「人事本部長として不適格と判断した場合に、あらためて右規則10条に則り異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部署への配置転換等を命ずべき義務を負うものではない」(東京高判昭59.3.30フォード自動車事件)と説示しています。
 労働契約で職務上の地位が特定され、その地位にふさわしい処遇を受けている場合、能力不足や適格性の欠如は、決定的な解雇事由になると思います。
 締結した労働契約が当初から地位を特定したものであったのか、それとも採用後にたまたまその地位についたのか、によってその後のジャッジが別れてきます。このような場合は、就業規則を適用除外とするような詳細な個別契約を作成するのが賢明です。

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