意識改革の中身
Q. 今回の不況で売上げが大きく落ち込み、赤字転落はほぼ間違いなしの状況です。人員削減を回避し、この難局を乗り切るためには、あらゆる原価低減や合理化を断行し、社員の意識改革を行わねばなりません。ただし、これまで賃金カットや賞与の大幅ダウンを実施しており、精神論で檄を飛ばすのも限界です。意識改革では何を強調すべきでしょうか。 |
A. 不況時に雇用を維持するためには、日頃から企業の収益性を高め、強い財務体質をつくることが求められます。従業員には、社員意識ではなく、経営者意識をもってもらいましょう。経営者的な発想ができる自立(律)型社員への変身です。自分の部署で自分に何ができるかを考え、自分の仕事を責任をもって遂行する。めざすは、「全員参加の経営」です。 |
◆スキルよりマインドに重点を置く
企業内教育で何を育成すべきかに関しては、職務知識・技術、職務遂行能力等のスキルと、意識、心構え、考え方等のマインドに大別することができます。通常、まずスキルの向上からと考えがちですが、私はマインドの方を重視すべきだと思っています。
というのも、人間の能力の差は、あってもせいぜい2・3倍程度。これが意識の差となると50倍から100倍にもなるからです(根拠のない仮説ですが)。短期間で急成長を遂げている企業がそのいい例です。かれらは能力の高い人を採用しているから伸びたのではなく、人並みの能力のある人材を採用して、社員の意識を高めることに力を傾注したから、すばらしい発展を遂げているのです。
◆経営者意識と全員参加の経営
では、経営者的な発想、経営者意識とは何でしょうか。3つの複合的な概念で構成されると考えています。
1つは、オーナー(所有者)意識。自分のものと思えば、目標や願望に対する達成意欲、チャレンジングな企業家精神は自然に湧いてくるでしょう。2つめは、共同経営者としての責任。自立の裏面。少なくとも、自分の食い扶持は自分で稼ぐということです。3つめが、採算意識。ズバリ、利益をあげること。企業は、社会に価値あるものを提供し、その代償として適正な利益を得るという社会的使命の認識です。
社員意識から経営者意識への転換は、組織に「してもらう」立場から、組織に「してあげる」立場への主体変容を起こすこと。まさに、180度のマインドシフトを遂げることです。
その試金石となるのが給与の捉え方。社員意識では、給与は手取り金額。手取り金額分だけ働けば十分で、それ以上は働きたくないと考える。一方、経営者意識では、給与は人件費というコスト。福利厚生費、退職金、教育訓練費などを加えた総額人件費は、月例給与総額のおよそ2倍。その人件費は企業全体で獲得した付加価値から捻出されます。自分の働き具合いは、付加価値の創出に貢献しているだろうか、という洞察に達するはず。
そうした自立(律)型社員による「全員参加の経営」をめざします。細かなことを上司から指示されなくても自律的な行動ができ、家族のように理解し協力しあい、自分の仕事を責任をもって遂行してもらうことです。
◆経営者マインドの醸成
従業員に意識改革を迫り、価値を注入するのは、経営トップや管理者の役割。ただし、経営目的や経営目標を明確にし、理解してもらうことが前提となります。そこではじめて活力や組織の一体感がでてくるからです。
全員参加の経営は、事業部制やアメーバ組織などの小さな部門に分割し、権限委譲を行うことにより、一層有効に機能します。
さらに、共同経営者の意思決定を計数のうえからサポートする管理会計手法の導入。経営者意識の涵養に抜群の効果があります。
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