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賞与の支給日在籍要件

Q.

当社の賃金規程によると、賞与は、「①会社の営業成績により、夏期賞与を6月、年末賞与を12月に支給する。②支給対象期間は、夏期が11月21日~5月20日、年末が5月21日~11月20日とし、考課査定により決定」されます。さらに、支給日に在籍している社員にのみ支給することになっています。このような定めは無効と言う声もありますが。

A.

支給日在籍要件の法的効力如何という問題ですね。つまり、賞与の算定対象期間の全部または一部において就労していたにもかかわらず、賞与支給日に在籍していないことを理由に賞与を支給しないことが許されるのか、が問われています。就業規則という法形式において、労使間のあらかじめの合意が成立している以上、有効と解せざるをえないでしょう。


◆賞与の具体的請求権発生の有無

 わが国の賃金においては、賞与の占める割合が比較的に高いことから、支給日在籍要件をめぐる紛争がしばしば発生します。
 また、賞与は、労働者にとって、本人と家族の生計を支える重要な役割を有し、支払う企業にとっても、経済情勢や企業業績に弾力的に対応できる魅力的な賃金支払形態です。したがって、賞与の経済的実質が、賃金の後払い的性格だけでなく、功労報償ないしは成果配分的性格を併有していることも異存のないところでしょう。要は、どちらを強調するか‥‥。
 法的論点としては、就業規則で一定の支給基準を定めていても、具体的な支給率や支給額があらかじめ確定していない場合に、賞与請求権は発生するのか、という点にあります。
 判例は、賞与について、月例賃金とは異なり対象期間の労働だけでは具体的な権利は生じず、労使の合意や使用者の査定等により支給額や支給条件等その内容が確定することによってはじめて具体的な権利となるとしています。
 なぜかというと、もともと賞与は、法令においてもその支払いが使用者に義務づけられておらす、労働協約や就業規則、慣行等当事者の合意によりその支給条件や支給額等が客観的に明確である場合にかぎって、法律上の賃金とみなすことができるからです。
 加えて、賞与は勤務時間に対する直接的な対価ではなく(名古屋地判昭55.10.8 梶鋳造所事件)、賞与の額の最終的決定は、会社の裁量に大きくゆだねられています。
 行政解釈も、賞与の意義について、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」をいい、「定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず」賞与とはみなされない(昭22.9.13 発基17号)としています。
 このような賞与請求権の考え方からすると、賞与の支給について、どのような条件のもとに、だれに、どのような方法で支給するかは、強行規定や公序良俗に反しない限り、就業規則で自由に定めることができると解されます。


◆支給日在籍条項と公序良俗規定

 では、支給日在籍要件は、公序良俗(民法90条)に反するでしょうか。支給日在籍要件があることにより、支給日前の退職希望者が、賞与をもらいたいがために退職を遅らさざるを得ず、退職の自由を制限するのではないか、が問題となるからです。
 しかし、支給日在籍要件は、退職そのものを制限するものではありません。締切日と支給日との間は短期間であり、労働者に退職日決定の自由は残されています。支給日在籍要件は、将来の勤務を期待し、賞与受給資格者の範囲を明確にするという点で合理性があり、公序良俗に反するものではないと考えます。判例も、支給日在籍要件を有効としています(最判昭57.10.7 大和銀行事件)。

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