HOME >これで解決!労働実務Q&A>紛争解決制度・労使関係>労働者の争議権 サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

労働者の争議権

Q.

労働組合を結成して20年が経過。この間、労使関係を運命共同体と捉え、様々な問題を平和的な話し合いで解決してきました。しかし最近になって使用者側は、労働条件改善要求を団体交渉の場でたびたび拒否。この局面を打開するためには、争議行為も辞さない覚悟です。労働者に保障されている争議権とは、どのような法的内容をもっているのですか。

A.

労働者の争議権は憲法で保障された権利で、3つの手厚い保護を受けています。まずは刑事免責。犯罪に該当する行為でも、刑罰を科されることはありません。つぎに民事免責。使用者に民亊上の損害賠償をしなくてもいいのです。さらに不利益取扱いからの保護。使用者は争議行為をしたことを理由として解雇や懲戒処分などを行ってはならないのです。


◆争議行為の法的保護

 労働者の争議権は、憲法28条の「団体行動権」に含まれた権利です。この団体行動権により、正当な争議行動については、刑事免責、民亊免責、不利益取扱いからの保護を受けることができます。
 第1の刑事免責とは、国との関係を律したもの。正当な争議行為には刑事責任が科されないということです。争議の過程において、住居侵入罪(刑法130条)や威力業務妨害罪(同234条)などの構成要件に該当する行為があっても、刑法上の正当業務行為とみなされ(同35条)、違法性が阻却されるのです(労組法1条2項)。
 第2の民亊免責は、使用者との関係です。争議行為には、労働契約上の債務不履行や操業の権利を侵害する不法行為などの民亊責任の発生を伴います。しかし、憲法および労組法は、このような市民法原理の要請を修正し、労働者の民亊上の責任も免除することとしました(労組法8条)。
 第3の不利益取扱いからの保護も、使用者との関係です。正当な争議行為については、使用者は解雇や懲戒処分などの不利益な取扱いを行ってはなりません。たとえ不利益な取扱いをしても私法上は無効となります。なぜなら、憲法28条の団体行動権は「公序」(民法90条)を形成し、これに反するからです。同時に、不当労働行為に該当することになります(労組法7条1号)。


◆「正当な」争議行為

 では、以上のような法的保護(効果)を受けるための「正当な」争議行為(要件)とは、どのようなものをいうのでしょうか。
 争議行為の正当性は、労働組合の圧力行動としてふさわしいかどうか、主体、目的、手段・態様の側面から判断されます。
 まず、争議行為は、団体交渉の主体によって行われることを要します。たとえば、一部の組合員が組合の指令なしで打つ「山猫スト」は、主体となり得ないので、正当性がない。
 争議の目的についても、団体交渉で解決しうるものでなければなりません。「政治スト」は、使用者が対応不可能であるため、正当性がなく違法です。
 問題となるのは、争議行為の手段・態様です。争議行為の典型はストライキ(同盟罷業)。いわば労働力の集団的引揚げ。賃金を放棄する代わりとして生産をストップさせ、使用者側に損害を与えます。双方が犠牲を伴うフェアーな方法です。したがって、労務の完全または不完全な停止であるストライキや怠業は、原則として正当性があります。
 「暴力の行使」に正当性がないことは明らかです(労組法1条2項但書)。
 ストライキを実効あらしめるためのピケッティングはどうでしょう。スト破りの労働者を中に入れないというやり方です。判例法理は、比較的厳しい態度をとり続け、「平和的説得」にとどまらなければならないという考え方です。たとえば、スクラムを組んで突き返すという有形力の行使は、正当性を認められないでしょう。

ページトップ