出勤停止・自宅待機命令
Q. 新型インフルエンザに感染した従業員に対し、出勤停止・自宅待機の措置をとることができますか。この場合、従業員に休業手当を支払う必要があるでしょうか。従業員と同居している家族が新型インフルエンザに感染した場合も同じ扱いでいいですか。また、自宅待機とした従業員からの年次有給休暇の取得の申し出に応じなければいけませんか。 |
A. 結論のみをいいますと次のとおりです。出勤停止・自宅待機命令は、使用者の業務命令権の一環として出すことができます。この休業に労基法26条は適用されず、休業手当を支給する必要はありません。同居の家族が感染した場合の取扱いも同様になります。自宅待機とした者からの年次有給休暇取得請求に応じる必要はありませんが、振り替えは可能です。 |
◆出勤停止・自宅待機の法的位置づけ
出勤停止・自宅待機の措置は、使用者の業務命令(指揮命令)によって行われます。
業務命令とは、「使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示または命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示・命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にある」(最判昭61.3.13 電電公社帯広局事件)とされています。
また、労働契約は、労務の提供と賃金支払いが対価関係に立つ有償双務契約です。この場合、労務の提供は労働者の義務であって、権利ではありません。つまり、労働者には就労請求権がなく、使用者には労務提供を受領する義務がないのです(東京高判昭33.8.2 読売新聞社事件)。
したがって、使用者の判断により従業員を出勤停止とし自宅待機命令を出すことに何ら問題はありません。新型インフルエンザは、感染症予防法6条7項に定める感染症であり、人への感染性が強いもの。会社は従業員の健康管理に責任を負っており、職場での感染を防止するために職場への立ち入りを制限することに十分な合理性があります。
つぎに、労基法26条の休業手当を支払う必要があるかどうか。この休業は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」とはいえません。新型インフルエンザの罹患は、基本的に労働者側の要因です。ですから、本件では休業手当を支給する必要はないのです。
◆家族の感染と自宅待機・休業手当
従業員と同居している家族に新型インフルエンザの感染が確認された場合はどうなるでしょう。
この従業員は「濃厚接触者」となり、感染の可能性が高い者とみなされます。感染症予防法44条の3第2項では、家族が新型インフルエンザにかかっている者などについて保健所等で調査を行い、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」と判断された場合、都道府県知事が外出自粛等の要請を行うこととしています。感染者と同様に職場に感染を広げるリスクが高いといえるのです。従業員自身が新型インフルエンザに感染したか判明するまでの間、休業手当を支払うことなく、出勤を拒むことは妥当だと考えます。
◆自宅待機決定後の有給休暇取得請求
自宅待機決定後に従業員から年休取得の申し出がなされた場合にどう対応したらよいか。
法律上、年休取得の申し出に応じる必要はありません。なぜなら、年次有給休暇は就労義務がある日に取得できるものであり、自宅待機となった日については、すでに労働契約上の就労義務は消滅しているからです。
ただし、実務上、有給休暇への振り替えを認めることは何ら差し支えありません。
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