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労働実務Q&Aこれで解決!

採用の自由

Q.

当社では、採用と人材育成を重視しており、時間もコストもかなり掛けています。とりわけ、当社の経営理念や社風に合わない人を採用してそれを戦力化することは、非効率でリスクを伴います。そこで、採用時の面接では、その人の思想・信条や価値観、尊敬する人物、家庭環境等を問い質すことにしています。しかし、これを問題視する人もいるのですが‥‥‥。

A.

使用者は従業員の採用にあたり、その思想・信条を理由として拒否できるか、というシビアな問題。判例は、広く採用の自由を認め、特定の思想・信条を有する者の雇入れを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない、としています。これに対し厚労省では、思想・信条や家族状況、生活環境等を採用基準としないよう、企業に協力を求めています。


◆採用の自由の法的性質

 採用の自由とは、いかなる者をどのような基準で採用するかという「選択の自由」を中心的な内容としています。
 どのような従業員を雇い入れるかは、企業の業績を左右する重要事項であり、経営責任を負う経営者の判断に委ねられるべきものです。とくに長期雇用システムを採用しているわが国の企業は、解雇に対する法的規制が強いため、慎重かつ厳密に行わざるを得ないという事情があります。
 採用の自由は、法律上、使用者の有する「契約の自由」の中核的部分として位置づけることができます。契約の自由は、国の最高規範である憲法にその淵源があり、私法の根本原則の一つです。三菱樹脂事件の最高裁判決は、憲法上の採用の自由について、次のように述べています。
 「憲法は、思想、信条の自由や法の下での平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別な制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想・信条を有する者をそれゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである(最判昭48.12.12)。


◆採用の自由に対する制限

 判決でいう「法律その他による特別の制限」とは、具体的に次のものをいいます。
 ① 労働組合法 会社が、労働組合の組合員であることを理由として採用を拒否する行為(不利益取扱い」)や、採用の際に、会社が労働組合に加入しないことや、労働組合から脱退することを条件とすること(「黄犬契約)は、不当労働行為として禁止されています(7条1号)
 ② 障害者雇用促進法 事業主に対し、法定雇用率に達する人数の身体障害者または知的障害者を雇用すべき義務を課しています(38条以下)。この法定雇用障害者数を達成していない会社は、障害者雇用納付金の支払いを求められ、これにより障害者の雇用促進を図っているのです。
 ③ 雇用機会均等法 募集および採用について、事業主は、「女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない」(5条)と規定しています。これは私法上の強行規定。したがって、これに違反する行為は無効であり、不法行為として損害賠償責任を生じさせます。
 ④ 雇用対策法 同じく募集・採用過程において、事業主には、その年齢にかかわりなく均等な機会を付与すべき義務が課せられています(10条)。募集・採用における年齢制限が原則禁止となり、一定の場合に限って例外措置を認めているのです。

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