出向
Q. 今日、関連会社や企業グループの間では、出向が頻繁に実施されています。当社の就業規則でも、「会社は、業務上必要があるときは、出向を命ずることがある」と定めています。このように就業規則に包括的な出向命令権を規定することによって、これが労働契約の内容となり、あたかも配転と同じように従業員に命令することができるのでしょうか。 |
A. 出向は、配置転換と異なり、企業間の人事異動であり、労務の提供先が異なります。したがって、原則として従業員の同意が必要です。民法625条1項は、使用者は、労働者の承諾がなければ、使用者としての権利を第三者に譲渡することはできないと定めています。ただし、出向制度の普及により、同意の内容や要件が変容していることも事実です。 |
◆出向の意義
出向とは、雇用先企業の命令を受けて、他企業で業務に従事すること。いわば企業外への人事異動であり、この点で、同一企業内の人事異動である配転や転勤と異なっています。
また出向は、出向元との労働契約を維持したまま出向先で労務を提供するものであり(在籍出向)、出向元と労働契約を解消して出向先と労働契約を締結する転籍(移籍出向)とも異なります。
つまり、雇用管理の一環をなす人事異動は、大きく分けて、企業内人事異動(配転、転勤)と、企業外人事異動(出向、転籍)に分けることができるのです。
今日、出向は関連会社への経営・技術指導や従業員の人材育成、あるいは雇用調整などを目的として、とりわけ大企業では日常的に行われています。
◆出向命令の要件と限界
かつての判例は、従業員の個別的同意なしに出向を命ずることはできないと考えていました。なぜなら、出向は労務提供の相手方が変更され、従業員にとって労働条件の不利益を生ずる可能性があるからです。使用者の地位の移転について労働者の承諾を必要とする民法の古典的契約理論(625条)もその根拠とされました。
しかし、その後、出向が増加するとともに、就業規則や出向規程が整備され、従業員の不利益を防止する措置が実施されて、従業員にも容認されるという経緯をたどります。
こうして、今日の判例は、就業規則や労働協約、出向規程に出向命令権の包括的規定があるか、または採用に際して関連会社等への出向を命じることがある旨の明確な説明と同意があれば、出向命令権を認めています。
ただし、配転命令の場合と同様に、出向命令が権利の濫用とならないことが必要です(労働契約法14条)。つまり、当該出向の業務上の必要性と従業員の被る不利益とが比較衝量されることになるのです。
◆出向中の労働関係
出向元と出向先の間では、出向期間、賃金の支払い、社会保険の取扱い等について出向協定が締結されます。出向従業員は、出向元・出向先双方と二重の契約関係にあるのです。
賃金の支払いについては、出向元が賃金を支払い続け、出向先が自己の負担すべき賃金額を出向元へ分担金として支払う方法と、出向先が支払い、出向元が自己の基準により差額を補填する方法があります。前者の場合には、通常、社会保険(健康保険、厚生年金保険)や雇用保険は出向元で継続しますが、労災保険は出向先で適用させます。
出向元と出向従業員には、基本的労働契約関係が存続しています。したがって、出向元は、解雇権、懲戒解雇権、復帰命令権などを保持します。
一方、出向先と出向労働者間では、労務の提供関係が生じ、出向先による指揮命令や服務規律を受けることになります。
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